グランドフォース 〜三人の勇者〜
□〜プロローグ〜
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東の大国、エレメキア王国。その国は地図上、世界7大陸の中で最も東に位置する大陸“ルートリア”の、これまた東に繁栄した世界最東の王国である。
大国と呼ばれるに相応しい豊富な国土と活気溢れる民で栄えるその国では、今日、さらに民を活気づけ喜ばせる出来事として、ひとつの新しい命が誕生しようとしていた。
王国の中心エレメキア城の宮廷で元気な赤ん坊の泣き声が響き渡る。
「王妃さま! 生まれましたぞ。お世継ぎの王子の誕生です!」
家臣の一人、ニトという初老の女性が今生まれたばかりの王子を抱きかかえ、まだ横になったままで荒い呼吸をしている王妃に向かって呼びかけた。
生まれたばかりの王子はニトの手の中で元気に泣いている。
「よかった……」
やっと呼吸を整え、無事に生まれた新しい命を愛おしそうに見つめながら王妃が微笑む。
その場で事を見守っていた大臣達や、見張りの仕事も忘れて集まっていた城の兵士達はその瞬間、みな口々に歓声をあげ、新しい世継ぎの誕生を心から喜ぶ。
なかには感動のあまり涙を流す者もいたほどで、王子の誕生は城中の人間から望まれ祝福されているようだった。
「もうこの子の名前は決めてあるのよ」
きれいな布にくるまれて、枕のすぐ隣にそっとおかれる王子を目でおいながら王妃は優しく言った。
「なんと言われるお名前ですか?」
「ふふ、それはね」
ニトの質問に王妃が答えようとしたその時だった——突然、目も眩むようなまばゆい白い光が王子の体から溢れ出し、彼を包みこんだ。
「……ッな!? こ、これは……!?」
その場にいた全員が突然のことに一体何が起こったのかわからず、驚いた表情で王子とその体から発せられる謎の光を呆然と眺めた。
しかし、王妃だけはあわてて光り輝いている王子を胸へと抱き寄せる。
「この光はなに……? いったい王子に何が起こっているというの……!?」
王妃が抱きしめることで、光は少しだけおさまったような気がした。
だが相変わらず王子の体は光に包まれている。
「うぅむ……、何が起こっているかはワシにもわかりかねます。……しかしどうやら悪しき力ではないようですぞ。これはとても聖なる力じゃ」
家臣のニトが困惑しながら言う。
「じゃが、どうしてこんな赤ん坊が……? いくら王家の血筋といっても、生まれながらにこれほどの聖なる光を放つ力をもっていることなど、ありえるじゃろうか」
王子を包む光は徐々におさまってきた。しかし、まだほのかに光る王子の左胸には白く輝く模様のようなものが浮かび上がっている。
ニトはその模様を見て一瞬言葉を失った。
「それは……その模様はグランドフォースの紋章じゃ……!」
「グランドフォース!? 伝説として語りつがれているあの……!?」
王妃もニトの言ったことに言葉を失った。
「そうです……グランドフォース。世界を救う勇者の証として言い伝えられている聖なる紋章。どうやらこの小さな王子はこれから数々の苦難の道を歩むであろう運命を背負って生まれてきた方のようですじゃ……」
先ほどの祝いのムードとはうってかわり、みな淡く光る王子を見つめて無言になった。
――世界を救う勇者。その道は決して穏やかな道ではないはずだ。
時には危険に身をさらし、茨の道を進むことにもなるだろう。場合によっては命の保障さえ、ないかもしれない。
これから王子の身に降りかかる数々の困難を思うと、その場にいる全員はただ黙って、今後の王子の無事と幸せを願わずにはいられなかった。
みなの無言の願いが届くなか、ようやく光のおさまった王子だけが、これから待ち受ける自分の運命をまだ何一つ知らず、無邪気な天使のような笑みをみせていた。
〜第一章〜「幼き旅人」