グランドフォース 〜三人の勇者〜

□〜第一章〜
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〜第一章〜「幼き旅人」


 世界7大陸の一つ「ランガ大陸」にある、地図にさえ載らない小さな村ユタ。
 そこは住民が全部で20人ほどの、旅人の行き来もほとんどない、外の世界からはほぼ孤立しているといってもいいくらいの田舎町だった。

 村の外では多少のモンスターが出るものの、それほど強いモンスターもいなければ村の住人が外へ出ることも滅多になかったため、村はいたって平和である。

 村の住人はほとんどが自給自足で野菜を作ったり、家畜を飼ったりして生活していたが村には一軒だけ宿屋があった。

 旅人がほとんど来ないのだから宿屋なんてそうそう商売にはならないのだが、たまに外の世界から珍しいものを売りにくる商人などを泊めるために普通の民家が副業のようなかたちではじめたものだった。


 その宿屋でめずらしく朝からバタバタとにぎやかな足音がしている――……。



「おはよー! 朝だよレキ!」

 そう言いながら扉を「バァン!!」とおもいっきりあけて入ってきたのは宿屋の娘・ミーリという少女だった。
 黒と茶のちょうど中間くらいのアッシュブラウンの髪を両側でおさげにしたあどけない少女で、年はまだ10を少し超えたくらいだろう。

 ミーリが元気いっぱい声をかけた相手は、そのあまりの勢いに驚いて目を覚ます。


『……わっ!? びっくりした……。ミーリ、できればもうちょっと落ち着いて起こしてもらえないかなぁ』

 にぎやかな朝の訪れに、レキと呼ばれた少年は軽く不満をもらしながらも怒った様子は全くなく、「うーん……」と伸びをしつつベッドから起き上がると、ミーリに向かってにっこり笑った。

 とても笑顔が似合う少年で、多少寝癖がつきながらもサラリとした輝く金髪、明るいブルーの瞳が差し込む朝日に照らされ一層キラキラとしており、それが爽やかな印象を与えている。


「レキがいつまでも寝てるからだよ! もう朝ゴハンできたって、おねーちゃんが言ってたよ」

 ミーリがいたずらっぽく笑いかけながら言う。

 この宿はミーリの姉そして母の二人で主に営われており、父親を早くに亡くしたミーリの家族は、残された人手で協力しあって宿を支えているのだ。


『わかった、今いくよ』

 レキはミーリに相槌をうつと、ぴょんとベッドから降り、再び大きく伸びをした。




 レキが着替え、ミーリと一緒に一階にある食堂へと降りていくと、そこにはミーリの姉であるスージーと母のマーサ、それから朝食を食べに来ていた村の住人・テッドとゼフという二人の男がいた。

「よぉレキ!」

 テッドがスープを飲んでいた手をとめ、無精髭の生えた顔をレキのほうへ向けて片手をあげる。

『おはよう、テッドさん』

「ミーリの目覚ましはよく効くだろ。なんたってこいつはうるさいだけが取り柄だからな」

 がははは、と笑いながらテッドが気さくに話しかける。どうやらミーリがレキを起こす声は一階にまで届いていたようだ。
 おそらくその声は間近で聞いていなくても、かなりの大音量だったことだろう。


「ミーリはもう少し落ち着いてくれるといいんだけど」

 ミーリの姉、スージーもちょっと困ったような表情をしながら口を挟んだ。
 スージーは落ち着きのないミーリとは正反対の、どちらかというとおっとりとした女性で、二人は姉妹といえどもその性格はまったくの対照的だった。

 そしてスージーは普段から元気のありあまっている妹に手を焼かされていたのだ。

「わたし、そんなにうるさくしてないもん」

 ミーリが少しムッとしつつ反論する。
 二人の言葉、特にテッドのうるさいだけが取り柄という台詞は多少聞き捨てならなかったらしい。彼女は両頬を大きくプーと膨らませ、怒った表所をしてみせている。

『うん、ミーリはちょっと元気すぎるだけだよね』

 レキはそのやり取りを見て、クスクスと笑いながら一応フォローを入れた。
 しかし、元気すぎるという言葉はあまりフォローにはなっていなかったため、ミーリはさらに頬を膨らませる。

「こらぁレキ! それ、どーゆー意味なの!」

 言いながら、ミーリは軽くポカッとレキの頭にツッコミを入れた。

 こんな光景はここ最近のお決まりのやり取りの一つで、それを見ていた誰からかともなく自然と笑いがこぼれる。

「お前らまたやってんのかー。仲のいいことで」


 それは何気ない朝の幸せなひとときであった。


――……


「ところで、レキはいつまでこの村にいられるんだ?」

 ひとしきり笑いのおさまったところで、再びスープを口にすくいながらテッドが聞いた。

『今日の昼には出発しようと思ってるよ』

「そうか……」

 テッドが少し寂しそうな顔になる。


 レキはもともとこの村の生まれではなかった。それどころかほんの二週間前に外の世界からやって来たばかりである。
 レキはたずねて来るものの少ないこの村に、久しぶりの旅人としてやって来たのだ。
 もの珍しい旅人ということに加え、まだ14才という若さの少年が一人でここまでやって来たことにみな興味と歓迎をあらわしていた。
 
 しかしまだ滞在して二週間ということを思わせないほどに、レキはこの村になじんでいた。
 もともともっている性格というか才能というか、レキには自然と人を引き付ける魅力のようなものがあり、旅人ということを抜きにしてもレキは人気者だったのだ。
 
 まるで、ずっと昔からこの村に住んでいたかのように、レキは村人の日常生活の中にとけこんでいた。


「この村にとどまることはできねぇのか?」

 テッドはおよそ返ってくる答えはわかっていたが、それでも聞かずにはいられなかった。

『……うん。この村のことは大好きだけど、オレは旅に出てやらなきゃいけないことがあるんだ』

 そうか、とだけ言ってテッドはそのまま黙り、また視線をスープへと戻す。
 そんなテッドのかわりに、隣で座っていた男・ゼフが身を乗り出してきた。

「まぁ、また気が向いたらいつでも来いよ。そのときは歓迎するからよ!」


「……レキ、行っちゃヤダよ」

 しばらく黙って聞いていたミーリが突然、口を開いた。さっきのおフザケの時の様子ではなく、今度は本当に少し怒ったような表情をしている。

「まぁまぁ、ミーリ。レキはもともとこの村に用があって来たわけじゃねぇんだからさ。たしか旅の途中で道に迷ってたまたまここに着いたんだったよな?だからこれ以上引き止めるわけにもいかねぇよ。もう二週間も引き止めちまってるわけだしよ」

 ゼフがミーリをなだめる。
 しかし、ミーリはそれには答えずしばらく黙っていたが、やがて席を立ってスタスタと食堂を横切ると、そのまま扉を開けて外へと出ていってしまった。

「ごめんなさいねレキ君。あの子、年の近い友達はレキ君が初めてだから、あなたがいなくなるのが寂しいのよ」

 母親のマーサがレキの前に朝食がのった盆をおきながら言う。

 レキも黙ってはいたが、この村から離れるのは正直寂しく思っていた。



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