◆キリ番の作品

□ときめきのキリリク
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4000キリ☆リク
15.見えない角度の続き…かな?)


■彼女のトモダチ


 私、富樫梢が一番許せないもの。
 嘘・陰口・弱い物虐め!
 一番っていったくせに沢山あるね、なんてつっこみは聞かなかったことにする。
 小中高一貫教育の我が聖ポーリア学園は、私が中二の頃から校名に「女子」の字が消えた。
 急に共学になったからって、まだまだ男子生徒は少ないし、大多数が持ち上がりの女子校育ちなんだから校内の雰囲気は女子校のまま。
 かく言う私自信、中学からの持ち上がり組だから、女子校の雰囲気しか知らないんだけど、お上品で優しいお嬢様学校なんてイメージは外面だけだって言わなくたってわかるでしょ?
 ケバい子はケバいし、オタな冴えない子も、私みたいにふつーの子もいる。お嬢様然としてるのは、去年まで生徒会長をしていた河合先輩と、同じクラスの江藤蘭世ちゃんくらいなもんだ。
 去年の入学式、いきなり男連れでしかも遅刻して来た彼女は、めちゃくちゃ目立ってた。
 噂だけ聞いてると、どんなヤツよ? って思ってたけど、噂なんてやっかみ89%だよね。2年で同じクラスになって、直接話をして大好きになった。
 かわいくて、おとぼけで、素直で、2コも年上だとは思えない!
 私が男だったら絶対惚れてる!
 そんな話をしてたら、真壁君に睨まれたことがあったっけ。
 いうまでもなく有名人の真壁君も、じつはからかうと面白いので、私は勝手に友情を感じている。


 で、何の話だっけ…?
 そう、許せないもの。
 私の後ろで化粧ポーチを広げてるクラスメイトなんかがまさにそれだ。

「気にしなくていいよ! 結衣!」
「そうだよ! 真壁なんか暗くて何考えてるかわかんないし、今時ボクシングとかって流行らなくない?」

 修学旅行の最終日、一緒に行動しようと、同じクラスの斎藤結衣が真壁君を誘った結果、まぁ当然の帰結として断られ、今残念会が開かれているという構図だ。
 私は日誌を付けながら、彼女達の話を背中に聞いていた。

「てかさ、江藤さん? 結衣に『真壁君を誘うならお昼休み前は止めたほうがいいよ』って言ったんだって!」
「うわ、なにそれ感じ悪っ!」
「やだー、何様のつもり?」

 きゃははと甲高い笑い声が勘に触る。
 お前が感じ悪いっつーの。
 お前らこそ何様だよ。
 日誌に綴る文字がだんだん濃くなっていく。

「あの人って、結局何なの?」
「中学が一緒だったって言ってた」
「彼女とかじゃないんでしょ?」
「神谷さんは許婚だって言い張ってるよね。江藤さんは運命の二人だとか言ってた」

 くっと嘲笑が聞こえて、ボキリとシャー芯が砕けた。

「なにそれ? 馬鹿じゃないの?」
「あの人達って変だよね」
「特に江藤さんて、なんてゆーか頭になんか住んでるよ、絶対!」
「言えてるー」

 きゃはははっと再度高くなった笑いに、私の消しゴムと勘忍袋が一緒にブチリと切れた。

「ちょっと!」

 ぼとっ

 ん? ぼと?
 音を立てて立ち上がった私は、廊下に翻る長い黒髪を見たような気がした。
 蘭世ちゃん!
 追いかけようとして、足元の鞄に気付く。お手製グローブ型マスコット付き。間違いなく蘭世ちゃんのものだ。
 あああああああああああ〜あたしのばかーーーっっっ
 あたしを探しに来てくれたに違いない。も少し早くあいつらさえ黙らせておけばこんなことには!
 鞄を抱きしめ唇を噛む。
 あ、もう一人の馬鹿発見。こいつのほうがあたしなんかより何倍も馬鹿だ。

「な、なんだよ」

 睨み付けるあたしの数歩前で立ち止まった大馬鹿野郎に、あたしは鞄を押し付けた。

「あんたのせいだからね!」
「あ、おいっ!?」

 彼女が泣くのも悲しむのも、全部いい加減で甘ったれのかっこつけのこの男のせいだ。
 むかむかしながらあたしは蘭世ちゃんを追いかけた。後ろで真壁の馬鹿がなにかいってたけど無視!
 あんたがはっきりしないから!
 あんたが守ってあげないから!
 だからあの子が泣かなきゃいけないんじゃない!
 走って、走って、空き教室で彼女を見つけた。
 窓際に佇む彼女は綺麗だったけど、寂しげで、胸の辺りがしゅんっとなった。

「蘭世ちゃん…」
「梢ちゃん」

 振り返った彼女は、涙の残る目許を拭って、にこりと笑ってくれた。
 無理に、笑わなくていいのに。
 隣に寄り添うように立つ。ハンカチを差し出すと、小さくアリガトとつぶやいて受け取った。

「えへ、ちょっとぐさっときちゃった」
「…あたしが、彼氏だったら、絶対泣かさないのに…」
「ぶっ」
「…どーして笑うかな」
「ぶっくっく…梢ちゃ、かっこいー」
「笑いながら言われても…」
「ふふ、ごめんごめん」

 あ、笑った。
 すぐ泣くけど、すぐ笑うよね。あたしは、自分に素直なこんな彼女が大好きで、なんかこう、守ってあげたくなっちゃうんだけど。
 あたしより先にそう思ったヤツがいて、そいつは彼女の想い人で。
 そしたらあたしの出る幕なんてホントはないんだよね。
 逆光を背負って教室の入口に立つ長身の影に、蘭世ちゃんの表情がぱっと変わった。朝の日差しに開いた花のように。

「真壁くん!」

 小走りに駆け寄る蘭世ちゃんを迎えるそいつは、多分見たこともないくらい優しい顔をしているに違いない。
 そんな顔するくらいなら端から泣かすな。

「富樫っ」
「ああ?」

 自分でも今のはちょっとガラ悪かったと思う。でもだって軽くムカついてんだもん。

「サンキューな」

 蘭世ちゃんの鞄を差し上げて真壁君が言う。
 鞄だけかい。

「色々」

 何よ。色々って。
 呆れた顔してたんだろう。真壁君は笑ってた。
 もう。いいよ。

「蘭世ちゃん。あたしまだ日誌提出してないんだ。先帰って? 旦那も迎えにきちゃったしさ」
「ヤ、ヤダ梢ちゃんたら!」
「だっ!誰が旦那だ誰が」

 逆光だけど、二人が真っ赤になってるのは雰囲気でわかった。
 あたしはニヤリと笑って真壁君を指差す。
 言葉もなく顔を覆う真壁君。

「あははっ」
「とーがーしー」

 凄まれたって怖くないもんね。なんたってあたしは江藤蘭世の友達なんだから。
 あたしはしばらく笑い続けて、二人がいるのとは逆のドアから教室を出た。

「梢ちゃん」
「うん?」
「アリガト。また、明日ね?」
「うん。また明日。あ、てか帰ったら電話するね」
「うん」
「…あ、真壁君ちに架けたほうがいい?」
「富樫っっ」

 きょとんとしてる蘭世ちゃんのかわりに真壁君が吹いた。

「あははは! じゃね!」

 照れるから、からかわれるんだっつーの。


 それからあたしは、日誌を仕上げて帰路につき、宣言通り蘭世ちゃんと楽しいお喋りの一時を過ごした。
 
 後で聞いた話だけど、教室でだべっていた斎藤結衣のとりまきは、真壁君に無言の圧力を受けたらしい。
 以来、蘭世ちゃんを批難する声は聞かない。

 真壁君への文句は増えたけど、それはまぁ、聞かなかった事にする。







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「真壁君ファンに傷つけられた蘭世に怒り心頭の俊」というリクエストだったのですが、蘭世に怪我なんかさせたくないし、そのままストレートに書いたんじゃどこかで読んだ話になっちゃう。
んで、再び梢ちゃんにご登場願いました。
ラストと題名に随分ない頭を悩ませましたよ(^-^;
リクエストを斜めにかすっている感が否めないので、俊視点で一本書く予定です。
あわせてご査収ください!
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