ゴンキル小説

□大切なひと
1ページ/1ページ

嫌いな人なんていないって…バトンよりSS からの続きです。
くじら島のゴンの家に行った時の話になります。









じゃんけん。

それは一見公平に見えるが、極々一部の人間にとっては恐ろしく有利な決断方法なんじゃないだろうか。

そう思ってしまう程の強運に恵まれた相棒―――ゴンの部屋で、横長のソファに寝転びながらゲームをしていたキルアがふいに口を開いた。


「オマエってさ、じゃんけん強いよな」


テーブルを挟んだ反対側で本を読んでいたゴンは、そうかなぁ、と首を傾げる。


「ホテルのベッドを決めた時も、メシ屋を決めるときも、いつもゴンが勝ってたじゃん」

「そういえばそうだねー」


開いた本をぱたんと閉じて、ゴンは思い出すように上を向いた。

確かにここ数年負けた覚えはないし、ハンター試験のトリックタワーでのじゃんけん勝負も自分ならば勝てたと思う。
実はじゃんけんにはちょっとしたコツがあるのだが、今のところキルアに教えてあげる気のないゴンは「たまたまだよ」とうそぶいた。


「にしちゃあ強すぎだろ」

「そうかな?じゃあもう一度ためしてみる?」


にこっと笑ってキルアの目の前に移動する。何か嫌な予感でもしたのか、キルアが一発蹴ってきた。


「痛いってば」

「やだ。何か勝てる気しねぇし」

「そんなことないよ」


じゃんけんは運でしょ?とこれまた適当な事を言ってコントローラーに手をかけると、奪われまいとキルアも力を入れる。並外れた力を持つ二人の間に挟まれたコントローラーがぎしぎしと嫌な音をたてた。
それに青ざめたキルアが、「わーった。わーったから!」とゴンを押しのける。


「ったく、今いいとこだったのに…。ほい、セーブっと」


オマエん家レトゲーばっかだな、とか言ってたくせにいざ始めると血が騒ぐのか、今日はゲーム三昧だったキルアがようやく身体を起こした。
早く再開したいのか、いつになく強引なゴンの様子に気付かぬまま、「いくぜ」と手を振り上げる。



じゃんけんにはいくつかの必勝法がある、と言われている。
例えば、最初にグーを出す確立が高いからパーを出しておけ、とか、熟練者はそれを逆手に取る可能性があるからチョキを出せとか、出す手を宣言して相手を惑わせるとか、そういったものである。

当然キルアも今までに色々試した。じゃんけんの前に「グー、チョキ、パー」と声掛けをしてグーを出すと見せかけたり、あえてペラペラ喋って意識を乱そうとしてみたり。
しかしことごとく失敗してきた経緯から、今ではゴンに勝とうとする意識が薄れつつあった。

だから今回も適当に相手をして、適当に負けて、さっさとゲームの続きをやろうとノープランで手を振り下ろす。


「やったー、勝ち!」

「はいはい」


もはや何の感慨もなく負けを認めたキルアは、再びソファにダイブした。肘掛に片腕を乗せてスタートボタンに指を掛けると、その手の上に自分と同じぐらいの手の甲が被さってくる。


「ん?」


不思議そうに見上げたキルアにゴンは極上の笑みを浮かべ、当たり前のようにこう言った。


「じゃあね、ひざまくら!」

「は?」


突然何を言い出すのか、コイツは。とキルアが首を傾げる。
そのリアクションをさせた張本人は、にこにこ笑顔でキルアの転がるソファの端に腰を下ろした。


「はい」


ぽんぽん、と自分の膝を軽く叩き、早くおいでとキルアを呼ぶ。


「…いやいや!何言ってんだオマエんな約束してねーだろ!つぅか普通負けたほうが膝枕すんじゃねーの!?」

「負けたくせにぐだぐだ言わないの」


一息にお断りと突っ込みを入れたキルアに、ゴンがすかさず退路を断つ。

都合が悪くなると誤魔化しにかかるキルアと違い、勝負事にゴンはうるさい。
どんな些細なことでも勝負は勝負。とコイツは絶対引かないだろう。


「あー、もう!わかったよ!」


負けた方が言うことを聞く、なんて危険な賭けはしていないのだが、膝に寝るぐらい大したことではない。
これでゴンが満足するなら、と心なしかにまにま笑っているように見えるゴンの膝に、キルアはごろん、と寝転がった。


「ったく、何が楽しいんだよ?」


ぶつぶつ文句を垂れながら見上げれば、真っ直ぐな黒い瞳がキルアを捕らえる。
そのいつもと違う角度と瞳に、わずかに身体が緊張した。

(っ、意識すんなって)

そんな反応をしてしまう自分自身が恥ずかしくて、キルアは軽く身じろいだ。しかしさりげなく顔を背ける前に、ゴンがこちらの頬に手を当てる。


ゴンにしたら大した意味はないのだろう。大人しくしなよ、ってぐらいなものかもしれない。

だがゴンを強く想うキルアにとっては、そう簡単には考えられない。
頑張って脳裏に閉じ込めていた先日の痴話喧嘩まがいのやりとりまで思い出し、カッと頬を赤らめると勢いよく身体を起こした。


「だー!もう終わり!」

「だーめ。もうちょっとだけ」


しかしキルアの肩に手を当てたゴンによって、膝の上に戻されてしまう。
しかも覆いかぶさるように目を合わせ、ふふふ、と怪しげな笑みを零されたら色んな意味で逃げ場はない。

朝から手にはゲームのコントローラー、目線もテレビ画面に釘付けだったキルアに対し、少し、いやかなり面白くなかったゴンとしてはここで逃がす気は全くなかった。



「この間のこと、キルアは忘れちゃったの?」

「え?」

「オレ、好きって言ったよね?」

「……」

「それとも忘れたフリしてるのかな?」


なる程。それが言いたくてこの体勢なわけね…。
結局ゴンもキルアも思う事は同じだったらしい。いきなり確信をつかれたキルアは、内心動転した。



先日ちょっとしたことで喧嘩になり、キルアはゴンの家を飛び出した。

潜んだ場所は崖に穿たれた洞穴の中。そう簡単には見つかるまい、と思った自分をよそに、ゴンはいとも簡単に探し出してしまった。

その時ゴンは言ったのだ。オレはオマエの何なんだ、と一人呟いたキルアに向かって、「キルアは特別だよ」って。


自分が大切に大切に、それこそ壊れものの様に胸の奥にしまっていた言葉をあっけなく口にしたゴンに、キルアは嬉しさだけじゃない複雑な気持ちを抱いてしまった。

友達として、それ以上の相手として、大切だからこそ言葉に出来なかった自分。
真っ直ぐで、純粋で、想いは口にしないと伝わらないよねと笑ったゴン。

躊躇いなく言葉にするゴンの気持ちをいい加減なものだとは思わないけど、キルアにとってその想いは仲間に対する素直な好意にしか思えなかった。


だから、ゴンの言うとおり。
忘れたフリをしていれば、今まで通り境界線を越えずにすむ。
それがゴンの望みであり、自分達の正常な立ち位置だと思ったから。


「いや、忘れたフリっていうかさ。別に大したことじゃないだろ?」

「どういうこと?」

「オレもオマエが好きだぜ?友達だもん、当たり前じゃん」


精一杯おどけるキルアにゴンが少し眉根を寄せた。


「キルアって嘘が下手だね」

「おいおい」


オマエに言われたかねーよ。苦虫を噛み潰すキルアに、ゴンは、だって、と続けた。


「この間と一緒。泣きそうな顔してるもん」

「…はぁ!?どこがだよ」


涙なんてとっくに枯れた。厳しい訓練を積ん身体に、そんなものは残っていない。
そもそも腐っても元殺し屋。ポーカーフェイスは仕事の必須技能だ。


「ずっと一緒にいるんだもん。それくらい解るよ」

「…あ、そ。でもオレは、」

「キルアが嘘をついてるのも、無理に忘れたフリしてるのも」

「………」

「一緒にいる期間は短いけど、キルアのことだもん。オレには解るよ」


自信たっぷりに言い切るゴンに、キルアはきゅ、と唇を嚙んだ。


『じゃあオマエはオレがどうしたいか解ってんの?
解りもしないくせに、オレ達の関係をぶち壊すような事を言うなよ』


それを言ったら台無しになると解ってるから、怒鳴りつけたいのを我慢する。

嚙んだ唇から血が滲んだ。



「でもね、そんな事言ってもキルアには仕方ないからさ。
オレは、オレのやりたいようにすることにした」

「は?」


唐突に、肩を抑えていたゴンの右手がキルアの額を露にする。
意味が解らず瞠目したキルアとの距離を詰めながら、ゴンはにこりと笑った。



「イヤだったら逃げてね」

「え…、ちょ…!」


展開についていけないキルアを見つめていた黒い瞳が瞼に隠れる。
前かがみに近付いてくるゴンに、「あ、ゴンの匂いだ」なんて呆けたことを思った直後、額に柔らかな感触が押し当てられた。

それが唇だと気付いた時にはゴンはパッと身体を起こしていた。



「なっ、なっ、なっ」

「ヘヘー、奪っちゃったー」


額とはいえ大胆な行為に顔を赤らめたゴンが軽く身体を躍らせる。
負けず劣らぬ顔色で、ぱくぱく口を開閉させるキルアに向かって胸を張ると、いたずらをした子供みたいな笑顔で言った。


「キルアが好きって、一生かけて教えてあげるって言ったでしょ」

「……ジィさんになって死ぬ直前に言えたら信じてやるって言っただろ」

「まったくキルアは素直じゃないなぁ!」

「余計なお世話」


突然の行動に押されていたキルアだが、変わらぬゴンとの会話にべーっと小さく舌を出した。
そしてよっこらせ、とようやく身体を起こすと乱された前髪をささっと直す。

起き上がった先に姿見があるのに気付いたが、多分絶対凄い顔をしてるから見ないように顔を逸らした。
全く、元殺し屋が聞いて呆れる。ポーカーフェイスのひとつも上手く出来ないのだから。



誰よりも大切だから今の関係を壊したくなかった自分。
気がついた想いがあるのなら、伝え合いたいと行動するゴン。

どちらの気持ちが小さくて、どちらの気持ちが深いのではない。
どちらも自分の心に忠実に従っただけであり、互いを想い合う気持ちは変わらない。


境界線を越えまいと、正常な立ち位置を決めてそこから外れないようにと思っていた。
それがゴンの為であり、望みだと思っていた。

でも本当は一歩踏み出すのが怖かっただけ。
そんなつもりじゃなかったと言われ、拒絶されるのが怖かっただけだ。

それに気付いてよって後押しされてしまえば、遠慮なんかクソ食らえだ。

悶々と思い悩んでいたのが馬鹿らしくなったキルアは、そう自らに結論付けた。


そして今度はこっちが焦らせてやろうと振り返る。



「…でも、じゃあさ」

「うん?」


人のことは言えないが、赤い顔のゴンが小首をかしげた。それにニッと笑い返し、軽い足取りで床を蹴る。
突如目の前に現れたキルアを、驚いたようにゴンが見上げた。


洞穴の一件から、まともにゴンの顔を見られなかった。
ポーカーフェイスで固めなければ、勘の良いゴンのこと、きっと意識していると悟られてしまうに違いない。
だから昨日も今日も、その話題に触れないように気をつけていた。

でもゴンはそんなキルアにすら気付いてて、いつものように「大丈夫」と手を差し伸べてくれる。


だからキルアも、いつものようにポケットに両手をつっこんで、じゃれ合いの延長線のように、でも気持ちだけはいっぱいいっぱい詰めこんで、



「!!」

「たまには素直になってやるよ」



ちゅ、と真正面から唇を重ねれば、ゴンが零れそうなぐらい大きく瞳を見開いた。


よっしゃ、仕返し成功だ。




一瞬の口付けの後、はっとゴンが我にかえる。



「なっ、ずっ、ずるーい!」

「オマエだってさっきやったろ!」

「さっきはおでこだったもん!はじめてはオレからしたかったのにー!」

「そっちかよ!ゴンがもたもたしてんのが悪いんだろ!」

「もぉぉ!次はオレからする!」

「やれるもんならやってみろ!」



真っ赤な顔で、どたどた、わーわー大騒ぎ。

友達のような恋人のような2人の追いかけっこは、ミトさんが怒鳴り込んでくるまで続いたのだった。





大切な人だからこそ、いつも一緒に笑っていたい。







-オワリ-






嫌いな人〜がすれ違いの2人だったので、幸せにしたくなりました^^
嫌いな人〜が一人称だったのに、こちらは二人称。混在しちゃってすみません。読みにくいですね;

それから、くじら島のゴンの部屋にはソファがあります。…ということにしといて下さい^^;


友達のような、恋人のような。
そんな2人が大好きです^^





ご来訪ありがとうございます!

2012/12/11 ユキ☆

  Clap
 ⇒よろしければ一言お願いします。頂けると励みになります!



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ