ゴンキル小説
□嫌いな人なんていないって…バトンよりSS
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『台詞一つでショートショート』なお題バトンQ
文中のどこかに
「『嫌いな人なんていない』って言えるような奴は、他人なんて心底どうでもいいのかもしれないね。」
を入れる創作バトンです。
ゴン→←←←キル。
くじら島に里帰りした際のお話。キル視点です。
ただ走るだけで息が切れたのは何年ぶりだろう。
ハンター試験の半分も走ってないのに、呼吸が乱れるなんて絶対おかしい。
それもこれもアイツのせいに違いない。と、上下する胸を片手で押さえ、ごつごつした崖の中腹に潜り込んだ。
下を覗けば荒れた海。この程度なら落ちても死にゃあしないが、岩でも出てたらちょっとヤバイ。
落ちない方がいいに決まってるので、とりあえず岩の上に腰を下ろした。
オレの選んだ洞穴は、レオリオなら両手を広げて岩に触れられる程度の小さなもの。座ってしまえば特にやることはないので、何となく沖に目をやった。
曇った夜空と同じ色の黒い海。境界線も解らないような沖合いに揺れる小さな明かりは、漁師の乗る船の灯りか、隣り島の灯台だろうか。
ここらの海は荒れやすいから、灯台の明かりだけが頼りなんだってゴンが言ってたっけ。
「…ちっ」
無意識にあのバカの事を考えてしまって、悔し紛れに舌打った。
先週から厄介になっているゴンの家に来てから、今日がはじめてのケンカだった。
だけどゴンにとっては取るに足らない言葉のやりとり。
困った顔をするアイツに、怒って言いたいこと言って飛びだしたオレは、アイツに比べて全然ガキだ。
ってことは…ケンカじゃないか。
さっきの舌打ちと一緒で、自分の思い通りにならないからって捨て台詞吐いて逃げ出した、ただのガキの独り相撲だ。
「…でも、しょうがねぇじゃん。すっげぇ腹がたったんだから」
ぽつん、と言い訳しても一人なんだから返ってくる言葉はない。
ザザ、ザザ、と海まで泣いて、時折岩に跳ね返って飛沫が舞う。
初夏なのに肌寒いのは、夜のせいか、海際のせいか。
「みんな好き、みたいなこと言うから…。じゃあオレってオマエの何なんだよって思うじゃん」
ハンターなんて奴らは勝手だ。欲しいものを欲しいと言って、手に入れるためなら何でもする。
ゴンも一緒。オレ一人にとらわれて翼をもがれるようなヤツじゃない。
欲しいものを手に入れたら、次を求めて飛び立っていく。オレがゴンを想う程、ゴンはオレを想っていない。
そんなことは解ってる。解ってるけど、こうはっきり突きつけられてヘラヘラしてられるほど、オレは誰でもいいわけじゃないんだ。
「だからあんなこと言ったの?」
突然降って来た声にはっと顔をあげると、逆さまのゴンの顔。
岩に掴まって中を覗いてるんだろうけど、ここ、海に面した崖の途中だぜ?普通見つかんねーだろ…。
「発信機着けたんじゃねーだろな」
「だから『嫌いな人なんていない、って言えるオマエは、本当は他人なんて心底どうでもいいんだろうな』なんて言ったわけ?」
オレの言葉なんか完全無視でゴンが隣に滑り込む。狭い洞穴の中で怒った人間と2人っきりって思った以上にキツイらしい。
「…何も繰り返さなくてもいいだろ」
「ねぇ、それ、本気で言ってんの?オレはオマエの何なんだよって。本当は他人なんてどうでもいいんだって。本当にそう思ってるの?」
「……それは、」
「オレがキルアのこともどうでもいいって、本当にそう思ってるの?」
「………」
「オレの質問に答えてよ」
怒った人間と2人っきりなのがキツイんじゃない。怒ったゴンといるのがキツイんだ。
腹を立てていたのはオレのはずなのに、ゴンの真っ直ぐな眼から逃れたくて下を向いた。
「…心底どうでもいいなんて言って悪かったよ。別にお前はオレのモンじゃねーし。みんな好きで問題ないよな」
俯いたオレとは対照的に、ゴンはじっとオレを見つめている。
「なのに変な事言ってごめんな。……もう戻ろうぜ?ミトさん心配してたら悪いか、ら…っ!」
最後まで言えずに言葉が途切れた。
ゴンの両手がオレを強く包み込んで、咄嗟に息を呑んでしまったから。
抱きついたり抱きつかれたり、じゃれ合い程度のことなら何度もしてきた。
ゴンには言えないけど、キスだって、それ以上のことだって、……経験がないわけでもないのに。
ゴンの、振りほどこうと思えば簡単に出来るような腕から逃げられない。
「でも、凄く腹が立ったんでしょ?それってオレを特別だって思ってくれてるからでしょ?」
ゴンの不遜とも取れる言葉に情けないかな心臓がはねた。
ポーカーフェイスは得意中の得意なのに、ゴンの前では上手くいかない。
それもゴンの言うように、特別だからなんだろうな。
オレはとっくにゴンが好きで、特別だと思っている。
でもゴンに同じ想いを抱いて欲しいかというと、よく解らなかった。
それは自分がゴンを特別だと思えることが嬉しくて、それだけで良かったから。
だけど人間というのは欲張りで、いつの間にか、同じ気持ちを求めていたんだと思う。
だからゴンの言葉が悲しかった。オレが想う程ゴンはオレを求めてなくて、いつでもどこにでも行ってしまえるんだって気がついたから。
『他人』というのは『オレ』のこと。
『オレなんてどうでもいいんだろう?』と八つ当たりしたって報われないのに。
「オレだってキルアが特別だよ。だからオレはお前の何なんだって言われて悲しかった。解ってくれてると思ってたから」
そう言ってぎゅっと抱きしめていた腕を緩めてオレの額に口付けた。
オレがずっとずっと秘めていた言葉を簡単に口にするゴン。出来るゴン。
ゴンは嘘を吐かない。オレを特別だと想ってくれているのは本当。
だけど違う。重さが違う。深さが違う。
だからこんな簡単に言ってしまえる。
「でもそれじゃ駄目だよね。ちゃんと言葉にしなきゃ。キルアはオレの特別だよって」
「…だから、簡単に、言うなって」
苦しくて仕方なくて、首を振った。何度も首を横に振って、温かい腕に爪を立てる。
だってオマエは本当に皆好きなんだ。オレを特別って言うけど、それはほんの少し飛び出しているだけ。
所詮どんぐりの背比べなんだっていい加減気がつけよ。
だからオレは求めたくない。お前にオレと同じ想いを押し付けたくない。
腹が立ったけど、オレはオマエの何なんだよって思ったけど、ゴンの翼を奪うような、いやゴンの翼を恨むような真似はこれ以上したくない。
「簡単じゃないよ。キルアが好きなのは本当だもん」
なのに、にこっと笑ってゴンが言う。ずるい。ずるいヤツ。オレの望む想いはくれないくせに、オレを捕らえて離さない。
「………ほんと、オマエってハンターだよな」
「え?どういう意味?」
きょとん、と目を丸くするゴンに「別に」と返して腕から逃れる。
教えてなんかやらない。自分で答えを探せよ。きっと一生解らないだろうけどな。
それ以上は口を閉ざしたオレに二、三言粘ってから、ゴンはぷーっと頬を膨らませた。
「じゃあいいよ。キルアが好きって、一生かけて教えてあげる。覚悟しといてよね!」
「……ジィさんになって死ぬ直前に言えたら信じてやるよ」
「ならそれまでずっと一緒だね?」
「………相変わらず恥ずい事平気で言うよなー、お前って」
「へへー」
無邪気なゴンの言葉に赤面してるオレこそ相当のバカ。
しかもその通りだったら良いのにとか思っちゃって、救いようのない大バカじゃん。
「あーあ。ばっからしー」
「ちょっとそれもどういう意味?」
「べっつにー」
ザンッ!と波が岩肌を抉っていく。黒い海の先の明かりが大きく揺らめく。
何も変わらない、来たときと同じ荒れた景色。
ゴンの言う好きがオレ程強くないことも、それが悲しくてたまらないのも来た時と同じ。変わらない。
でも少しだけ寒さが和らいだのは、お前と一緒だからかもしれないな。
「ところでさ。嫌いな人なんていないって言っただけで『他人なんて心底どうでもいい』って解釈するのはヒドイんじゃない?」
「う、うっせーな!そう聞こえたんだから仕方ないだろ!」
オワリ
キル誕話も拗ねてるキルと宥めるゴンだった事に気がつきました(汗)
次はこのパターンから脱したいです(-_-;)
格好良いキルアが書きたいよ!
ご来訪ありがとうございます!
2012/9/9 ユキ☆
■ Clap
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