ゴンキル小説

□風薫る
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『風薫る』





物心付いた頃から殺しは生活の一部だった。

兄貴が誰を殺っただの、次のターゲットはお前の実習にちょうど良いだの、親が子供に自転車の乗り方を教えるような気軽さで人の命を断ち切らせる。
家人も使用人も全員が人殺し。あの中にいたら人と害虫の区別がつかない子供になるのは普通だろう。

実際、兄貴もオレも弟も、全員が何の感慨もなく“命を盗み”続けていた。むしろ成功する度に与えられるご褒美や、母の抱擁、頭を撫でてくれる親父の大きな手が嬉しくて、自分は良い事をしているんだと信じていた。
それは完全なるすりこみで、繰り返せば繰り返すほど呪縛は完成されていく。望む人格に育て(つく)られていく。


でもある時からオレの中に違う感情が生まれてしまった。


人の命は尊いとか、奪ってはいけないとか、そんな高尚なもんじゃない。ほんの僅かな疑問。『本当にこれは正しいのか?』という僅かなものだった。

だけどそれは静かな水面に垂らされたジュースのように、オレの心に滲んでいく。
一度何かが混ざった水は、純水には戻れない。生まれ持っての殺人鬼だった分、混ざり気がなかったオレの中に広がった“汚れ”は、決して消えることはなかった。


そこからのオレは、家族からしたら最高の資質を持った人格破綻者だ。
だから出来損ないのオレだけは、なかなか外の世界に出して貰えなかった。
下手に世の中を見せたら更にオレが壊れてしまうと思ったのだろう。確かにオレは“壊れて”しまった。家族からしたらだけどね。




「キルア?何してるの?」


声を掛けると同時に、床に胡坐をかくオレの肩口からゴンが手元を覗いてくる。
寄りかかんなよ、と重くもないのに唇を尖らせるオレに頓着せず、目に入ったものに懐かしそうな歓声を上げた。


「スケボーだ!持ってきてたんだねー」

「ああ。折りたたみ式でさ、カバンに入れてたんだ」


本当は武器にもなるんだぜ。とは言わずにちょいちょいと油を注して手のひらで車輪の滑りを確認する。うん、良い感じ。
状態に満足して油さしをしまうと、うずうずといった感じでゴンがメンテされたばかりのスケボーを見つめていた。


「…やるか?」

「いいの!?」

「釣竿貸してくれたらな」


いつかの反対の言葉を返せば、気付いたゴンがニカッと笑って部屋から駆け出していく。隣の部屋から取ってきた釣竿を片手に、早く行こうよ!と待ちきれなそうにドアの外から足踏みをする。
そんな普通の友達同士みたいな姿に、オレは照れくさくなってベッドスタンドに掛けていた帽子を深く被った。


生まれたときから人殺しとして育てられた。
それが当たり前で、違う道なんて考えたこともなかった。
でもふとしたきっかけから疑問を抱き、今ではゴンと友達になりたいという意思の元、こうして一緒に旅をしている。

親父との約束がなかったとしても、オレはゴンを裏切らないし、ゴンもオレを裏切らない。
初めて出来た友達だから、…いやそうじゃなかったとしても、このことだけは自信があるんだ。


「下の広場でやろうぜ」

「うん!」


足でスケボーの先端を踏みつけて起こす。
そのままピカピカになったスケボーを小脇に挟み、オレはドアで待つゴンに背中を向けた。
一つしかない出口に向かわず、大きく窓を開けるオレをきょとんと見つめるゴンを一度だけ振り返って、


「んじゃ、負けた方がジュース奢り!」

「あー!ずるいよキルア!」


答えを待たずに窓から飛び出す。
慌てたゴンが追ってくる気配を確認してから、オレは一気にスピードを上げた。



ゴンはオレの大事な友達。





-オワリ-






初ハンターはキルアたんです♪
時間軸は、天空闘技場編で200階に上がる前ぐらいです(でないと死んじゃう^^;)
あとスケボーの話は全部捏造。さすがにスケボーは武器にならないよね…^^;

キルアが自由になりたいと思うようになったきっかけも、いつか掘り下げたいですv
キルア大好き!(はいはい)



ご来訪ありがとうございます!

2012/6/10 ユキ☆

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