□通りすがりの2
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+「通りすがりの」の続き。


「シーさん。」

病院の中を数人の医療忍が行き来して行く。
治療に集中している最中、背中から声を掛けられた。
振り返ると医療忍の一人がこちらに向かって呼び掛けているのが見えた。
淡い桜色の髪をした、翡翠の目の少女。
確か名前はサクラだったか。
快活な調子で彼女が言った。

「その子の治療が終わったら、次こっちをお願いできますか?」
「分かりました。」

返事を返し怪我をした下忍の子供に向き直る。
巻き掛けの包帯を巻き終えると、小さく肩を叩いて口角を上げてみせた。

「出来たぞ。」
「兄ちゃんありがとう!」

明るく子供が笑い返した。

「次は気を付けろよ。」
「分かってる。また包帯巻いてくれる?」
「ああ。早く行って来い。友達待たしてるんだろ?」
「うん、じゃあまたね!」

元気良く少年はカーテンの外へと消えて行った。
息をついて頭に巻いていたタオルを取り、シーは髪を掻き分けた。
金髪がはらりと顔に掛かり、指でそれを払いのける。
━これで十人目、か。
今日で三日が経つ。
木ノ葉病院で働く医療忍達とはほぼ顔と名前を覚え、連携しながら怪我人の治療に当たっていた。
シーが木ノ葉の病院で働くに当たって火影が出してきた条件はこうだ。
額当ては極力外してほしい事が一つ。
そしてもう一つはあまり目に浮かないようにしてほしいと言う事だった。
やはり他国の人間である自分は容姿を取っても目立ってしまうらしい。
考え抜いた末にタオルをバンダナ巻きにして金髪を極力隠す事にした。

溜息を漏らし、額の汗を拭う。
こう言う時になるといつも自分の容姿に歯痒さに似た物を覚えてしまう。
何故自分はこうも目立ちやすい見た目に生まれてしまったのか、と。
━・・次の患者を診るか。
物思いに耽っている余裕はない。
自分は今他国の要請で雇われている身なのだ。それならそれに応えればいいだけの事。
心を決めて再び頭にタオルを巻き、スツールから立ち上がった。

+ + +

病院に自分達の足音が響く。
周りにはソファーに腰掛けている怪我人や部屋を行き来する医療忍が見えた。

「大丈夫?痛そう。」
「これくらいどうって事なしだって。その為に病院来たんだろ。」
「それはそうなんだけど・・・。」
「平気平気。心配無用ってな。」

サイの言葉にザジは頭を振って答えた。
友人を心配させまいとへらっと笑みを返してみせる。
飄々とした面持ちで歩く様子を一見すれば大丈夫そうに見えた事だろう。
が、実際はそれ程無事と言う訳でもなかった。
片膝が痛い。
ヒリヒリとした擦り傷の痛みと、ズキズキとした打撲の痛み。
それなりに軽傷では済まなかったようだ。
内心では必死に痛みに耐えていた。
まずい。
痛い。
我ながら大層なヘマをしたものだ。

「あれ、サイじゃない。」

誰かに声を掛けられ、二人同時に立ち止まった(声を掛けられたのは正しくはサイ一人だったのだが)。
薄い桃色の髪にペールグリーンの目の、自分達と同年代程の少女。
いや、正しくは自分達よりも一歳程年下だ。

「サクラ?」

サイが彼女に声を掛けた。
サクラがこちらに向かって近付いてくる。

「どうしたのよ、怪我はしてないみたいだけど。」
「ああ、ううん。僕は付き添い。怪我したのは・・・。」
「俺の方。」

サイの視線に頷き、軽い調子で手を挙げてみせた。
小さく目を見開いてサクラが言った。

「ザジさん?珍しい事もあるのねー、あまり怪我しないタイプでしょ。」
「軽ーくヘマしてさ。足やっちまって。」

小さく笑いながら片足をブラブラ揺らしてみせる。
ズボンの膝辺りが裂け、そこから肌が覗いていた。
擦り剥いた傷が痛々しい。
サクラが顔を顰めた。

「派手にやったんですね。任務?」
「木から落ちたんだ。」
「そうそう。」

開けっ広げにサイが答える。
正直な友人の行為に思わず否定しそうになったが、何とかそれを抑えてサイの言葉に同調する。
彼の自分を隠さない素直な性格をザジは気に入っているが、正直過ぎる所が玉に傷だった。
自分にも一応プライドと言う物がある。
出来たら自分のミスは知られたくないと思っていたのだ。
見栄っ張りだと言う自覚はある。
それでも昔からの癖でそうした自分の犯した失敗は隠しがちだった。
が、それではさらに墓穴を掘る事になるだけだ。
冗談でも言う調子で話してしまえばいい。

「木に登って降りれなくなってた子供を助けようとしてさ。足滑らしてそのまま落ちたんだよ。」

呆れたようにサクラが眉をひそめた。

「中忍にもなってそんなヘマしたら駄目ですよ?」
「はは・・ちょっとしたミスだったんだけど。」
「そのミスで怪我したんでしょ。いつか大怪我に繋がるって事もあるんだから。」
「・・スミマセン。」

肩を落として呟いた。
サクラの言う事は尤もだ。
一つの小さなミス――例えば周りを確認せずに飛び出す――が大きな失敗に繋がる事もある。
仲間を死なせてしまう事も在り得るのだ。
ミス。
仲間。
チクリと胸の奥が痛んだ気がした。
何故かは分からない。
気のせいなのかも知れない。
引っ掛かる物を感じたが気にしない事に決めた。

「じゃあとにかくこっちに来て。」
「ん、頼むわ。」
「サイ、あんたはどうするの?」
「一応付いていくよ。」

サクラに引き連れられ病院の奥に進んで行く。
医務室のドアが見えた時、彼女が再び口を開いた。

「丁度今臨時雇いの医療忍の人が来てるから、その人に診てもらってね。」
「臨時?」

こちらの言葉に彼女が答える。

「戦争で沢山人が亡くなったでしょ。戦死者の中には医療忍も多かったから、今人手不足になってるの。
 それで綱手様が他里に要請して、医療忍を雇う事にしたって訳。」
「他里ねぇ・・・。」

そう言えば医療班のテントが襲撃を受け、何人もの医療忍が殺されたと聞いた事がある。
戦場で命を落とした医療忍も少なくない筈だ。
それはどこの里も同じように思えた。
今は里同士で補い合い、支え合っているのだろう。
大戦で国の間を隔てていた壁は無くなった。
そして今ではそれぞれの里が協力し合っているのだ。
数年前とは大違いだった。
木ノ葉以外の忍が街中を歩いている光景など、あの頃は全然想像出来なかったのだから。
━ま、やっぱ皆仲良しが一番だよな。
自分が配属されていた奇襲部隊には五大国それぞれの仲間がいた。
木ノ葉に砂に、雲に霧に岩。
今でも時々交流はある。
大戦が全てを変え、繋がりを増やしてくれたのだ。
そう思うと純粋に嬉しく思えた。
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