□通りすがりの1
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ふとその人に気付いたのはたまたま通りを横切ろうとしていた時だった。
見知らぬ人物が視界に入り、思わずザジはその人物を凝視した。
━あっれ――――。
屋台形式の弁当屋の前で、一人の人物が店の店主とやり取りをしていた。
背は自分の先輩達と大して変わらない。
体格からして成人男性だろう。
笠を目深に被り、黒い着流しを着込んでいる。
顔は笠に隠れていて見えない。
不思議に思ってはたりと足を止める。

あんな人、木ノ葉にいたっけか。
多分いなかったと思う。
旅人か、商人か。
僧と言う事もあり得る。
里では時々道端で椀を捧げ持ち、通行人に賽銭を求めて来る僧侶を見掛ける事も少なくない。
が、どうもそれも違うようだ。
鋭く研ぎ澄まされたチャクラ。
どう感じようがこれは忍のチャクラだ。
修行で鍛えてきた質を持つチャクラを彼から感じる。
と言う事は。
━忍なのかあの人。

「はいよ、毎度あり。」
「かたじけない。」
「それにしても見掛けない顔だね、あんた。旅の人かい?」
「まあ、そう言う者だと思って下されば。」

店主から弁当の笹包みを受け取りながら笠の男性が返事を返した。
低い声だ。
自分が聞いた事のあるどの声にも当てはまらない、独特な響きを持った低音の声。
包みを受け取る手が人よりやや色白に見えた。
男性の物とは思えない位綺麗な手だった。
店主との会話は続く。

「そうかぁ、旅人さんかぁ。どこの国から来たのか聞いても?」
「雷の国です。」
「へえ!随分遠い所から来たんだなぁ。」
「はは・・・、確かに少し長旅でしたね。」

店主が笑って続ける。

「なら尚更気を付けないと駄目だよ、あんた。ここ最近スリが多くて。」
「ほお?」
「戦争で何人も人が死んだだろ?木ノ葉も例外じゃなくてな。戦争孤児が一杯溢れてんだ。余所から来た人は特に狙われやすいよ。」
「分かりました。肝に命じておきます。」
「ガキはすばしっこいからな。気を付けろよ!」

やがて男性が歩き出す。
「気を付けてな」と店主が声を掛けて手を振り、それを見送って行った。
通りでその一部始終を眺め、一人佇んでいたザジは目を瞬かせた。
雷の国。
と言う事は、彼が忍なら雲隠れの里から来た事になる。
雲隠れ。
━何で雲忍がわざわざあんな格好で木ノ葉にいるんだ?
どの国の里も開かれた状態になっている今、他里の忍がいる事は別におかしい事ではないが。
それでもやはり引っ掛かってしまう。
何故ここに来ているのだろう。
わざわざ変装してまで?
別にそこまでせずとも怪しまれはしないだろうに。

「・・・考えてても意味ないか。」

やめだやめ。
下っ端の自分には関係のない事だ。
それにこちらの里の要請でやってくる他国の忍など山といるに違いない。
戦争で木ノ葉隠れも人材不足になっているのだ。
今は他国同士でそれを補い合っているのである。
自分が首を突っ込む必要はないだろう。
そう頭の中で結論付け、ザジは再び歩き出した。

━サイの家に久々押し掛けてみっかな・・・。
電柱が立ち並ぶ繁華街の空を見上げ、そう思案した。
戦争はザジにとっては良い事ももたらしてくれた。
同年代の友人が二人出来たのだ。
一人は同じ木ノ葉の忍のサイ。
もう一人は少し離れた雲の里にいるオモイだ。
同じ奇襲部隊に配属されて、そこで三人共々意気投合したのがきっかけだった。
今は時々顔を合わせては共に時間を過ごす仲になっている。
尤もオモイは任務で火の国を訪れた時だけ顔を合わす事が出来る為、三人揃う事はあまりない。
それでも確かに自分達の間には強い絆が生まれていた。
「友達」としての絆が。
━・・何か、嬉しくって素直に喜べないっつーか・・・。
少し照れ臭い。
二人の友人の事を考えると自然と頬が緩む。
あまり自分は同年代の友人を持っていなかった。
どちらかと言えば先輩達と過ごす事の方が多かったのだ。
日向一族の先輩達と、油女一族の先輩達。
里で名のある感知タイプの名門一族の人達に、昔から自分は世話になっていた。
正月や行事で親戚同士集まる時になれば、決まって自分の事も親戚同様に招いてくれた。
家族を持たない孤児だった為、皆が気に掛けてくれたのだ。
それは今も変わっていない。
ただ最近先輩達は自分にこう言うようになった。
「前よりも明るく笑うようになった」と。
それは自分でも気付いていた。
━菓子でも買って、駄弁りながら食うか。

「うっし、そうと決まれば・・・。」

そう声に出してスーパーに足を向ける事にする。
と。

「うわっ!」
「おい、押すなガキ!」
「きゃあっ。」

後方から騒がしい声が聞こえてきた。
━?
何事かと振り向けば。

ドンッ。

「いってえ!」

いきなり誰かにぶつかられ、地面に倒れ込んだ。
━一体何だよ!
むくりと起き上がり、ぶつかってきた相手を睨み返す。
が。
━え・・・。
目の前にいたのはまだ顔付きにあどけなさが残る、短く黒髪を刈った少年だった。
裾の解れ掛けた服を着ている。
木の実のように大きな瞳が怯えた色を浮かべてこちらを見つめ返していた。
が、すぐにすまない事をしたと言う表情を幼い顔にパッと浮かべ、こちらに手を合わせて頭を下げてきた。

「ごめん、兄ちゃん!怪我してねえ?」
「え、あ、ああ。別にどこも・・・。」
「ほんとごめん!おれ急いでるんだ!」

そう言うとあっという間にその子供は駆けて行ってしまった。
ぽかんとしたまま走り去って行く小さな背中に視線を送る。
ぶつかってきたのが子供だった為、毒気を抜かれてしまった気分だった。

━・・・?
ふと違和感を覚えた。
何となく懐が軽い。
何気なくズボンのポケットを弄ってみる。
そして凍り付いた。
━は・・・?おい、ちょっと待てよ。
財布がない。
確かにそこに入れていた筈だった。
それがなくなっている。
綺麗さっぱりと抜き取られてしまっていた。
━でも確かにここに入れてた筈じゃ・・・。
ハッとして息を飲む。
まさか。
子供が走り去って行った方角にもう一度目を向ける。
そして全てを理解した。
━・・さっきのあの子か!
勢い良く立ち上がると真っ直ぐ駆け出して行った。

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