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□傷痕
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夏がきて、
蝉の声が聞こえる頃に、錫高野与四郎が忍術学園にやって来た。

「いよーぅ! 伊作、元気にしてたーか? 迎えに来たべ」
与四郎は校門の前で、馬からヒラリと降りると言った。

「久しぶりだね、与四郎も元気だった?」
横で伊作が笑顔を見せている。
「俺のことは無視か? 挨拶くらいしてくれたっていいだろ。」
「あー、悪りぃ、食満も相変わらず元気そうだーナー」
与四郎はこちらを見て、意地悪そうにニヤリと笑った。

与四郎は、伊作の荷物を受け取ると馬の鞍にかけ、出立の準備をしている。
伊作はこれから風魔流忍術学校に暫く滞在することになっているのだ。
学園長の突然の思いつき…ではないが、異流派間の交換留学というやつらしい。
生徒の交流を兼ねた、忍術の情報交換が目的だと聞いている…。
六年生の中でも伊作に白羽の矢が当たったのは、伊作の薬師としての能力が学園外でも高く評価されている、という事に尽きる。

「今日は、与四郎 一人なんだな。」
留三郎は腕を組んで、門扉に寄りかかって言った。
「そうさ! 何か文句あるべ?」
「別に、ねぇけどよ。」
今日は山野先生も、古沢仁之進もいなかった。
与四郎の忍者としての実力は認めているし、そう言う意味では心配してないが…。

「じゃあ、留、ワタシは行ってくるね!」
留三郎の心配を他所に伊作は笠を被ると明るく言った。
「ああ。気をつけて。」
色々かける言葉もあったような気がしたが、別れを惜しむのも女々しい気がして、やめた。

今日は初夏の日差しが眩しい。
馬を引いて歩きだした二人の背中を、留三郎は目を細めて見送るのだった。


※ ※ ※





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