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□傷痕
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翌日。日の出前には祠をたち、正午頃に風魔の里に着いた。
今日は、雲ひとつない晴天だ。
この辺りは標高が高いせいか、天気のわりには涼しい風が吹き、西方には霊峰富士の美しい稜線が見えた。

風魔の里は地理的にも外界から隔離された場所にあるが、大名の干渉を受けることなく政治的にも独立した里になっているらしい。
里内には多くの商店が並び、食料や日用品もある程度自給自足で賄われているようだ。

里に入ってから暫く進むとやっと今回の旅の目的地が見えてきた。
風魔流忍術学校である。
学校の規模は忍術学園とだいたい同じくらいで、くの一教室だってある。
忍術学園と違うことと言えば、与四郎が言っていたとおり、
虫獣遁に遣う生きものを飼育する専門の獣舎があることくらいだろうか。



ワタシは風魔に滞在している間、そのほとんどをこの校内で過ごした。
滞在中は、与四郎と一緒に六年生の授業に参加することもあったし、薬草や毒草などについての講義を頼まれることもあった。

与四郎が任務で里外に出てしまうと、なんとなく自分の居場所がなかったのだけれど、
そんな時は、山野金太先生が何かと世話をやいてくれた。
山野先生は校医ではないが医務室の管理を任されているらしく、「好きに使っていいから」と、空いた時間に医務室に居ることを許可してくれた。
八畳ひとまの医務室は、忍術学園のその空間を思わせて、居心地が良かった。
それに怪我の手当てに来た生徒と話せるのはいい機会だった。



ある日、医務室で薬を煎じていると、くの一教室の子が足を挫いたと言ってやってきた。



「キミかぁ!! 転校生って言うのは…!!」

そのくの一は、医務室の扉を開けて、ワタシを見るなりそう言い放った。
「…。…。」
男子が女子の勢いに圧倒されるのは、どこの学校でも同じらしい。

彼女は医務室に入ると、向かいに座って、まじまじと顔を覗きこんできた。
まとめられた彼女の黒髪がふんわりと肩口のあたりで揺れる。
誰がどう見ても闊達そうなくの一だ。







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