09/02の日記

14:18
君に愛していると伝えたかった。※オリジナル
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別に特段に愛してはいないけど、他の人に比べて好きな女がいた。
そいつは酷く綺麗な黒髪をしていて、そこ黒髪は初恋の人によく似ていた。

『待ってよ』

初めて彼女と出会ったのは、大学の廊下だった。
彼女とすれ違ったとき、初恋のあの人に間違って手をつかんだのがきっかけだった。

『あの、何でしょうか?』

彼女はそういって振り返った彼女は初恋の人と似ても似つかない顔をしていた。
初恋の人は凛々しい顔立ちだったが、彼女は儚い可愛らしさをした顔だった。
あの人とは違う…
でも、彼女の髪はどこまでもあの人に似ていた。

『一目惚れしました。つきあってください』

気がついた時には無意識にその言葉が出ていて、彼女はきょとんとして僕を見ていたが、少ししてからこう答えた。

『私でよければ喜んで』

そのまま大学が卒業するまで彼女とつきあって、彼女との間に子供ができた。

『子供ができたし、籍をいれよう』

僕がそういうと彼女は静かに首を横に振った。

『結婚はしません』
『なぜだい?僕との子供をおろしたいのかい?』
『いいえ。あなたとの子供は産みたいです。生まれた時は認知はしてください』
『じゃあ、なんで結婚してくれないの?』
『お願いします…理由はいえないの…でも…』

そういって彼女が泣くので仕方なく僕は黙って彼女の言うとおりにした。
子供が生まれても彼女と籍を入れず、子供の認知をして、そのまま同棲を続けた。
いや、同棲というより実際は事実婚に近かった。
子供が生まれても彼女と結婚しなかったため、僕は彼女の両親と大きな溝ができた。
それでも僕は彼女の願いを叶えるために彼女の両親の『結婚して責任を取れ』という言葉を無視した。
生まれた子は男女の双子で、男の子は僕に、女の子は彼女によく似ていた。
彼女と子供に囲まれた生活は酷く平凡で幸せだった。
しかし、そんな生活は5年しか続かなかった。
生まれつき身体が丈夫でない彼女は子供を産んで5年後、僕と子供を置いてあっさりと先に逝った。
残されたのは僕と彼女が残した双子の幼児。
彼女に置いて逝かれて、僕は何か大きなものを失った気がした。
心の中にぽっかりと大きな穴ができたような不思議な感じがした。
彼女と僕との間に生まれた双子の幼児を見て思い出すことは、今は亡き彼女のことだけ。

どうしてだろう?
僕は彼女のことは特段、愛しているわけではない。
僕が手に入らなかった初恋のあの人の替わりに彼女を好いただけだった。
それだけだったはずなのに…

ー僕は今何故彼女の死をこれほどまで悼んでいるのだろう?

その理由を考えて考えて僕はようやく気がついた。

「なんだ…僕はとっくの昔に君だけを愛していたんだ…」

彼女が死んだ後にそう気がつくなんて遅すぎる。
きっと彼女もあちらの世で呆れていることだろう…
でも僕は…

「気づくのが遅すぎてごめんね…君のこと、この世で一番愛してるよ」

君に愛していると伝えたかった。

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