08/26の日記

15:10
想いで残し。
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墓と領地交換の話が同時にやりたくて混ぜた結果、意味が分からなくなった捏造話。
主役は
毛利元倶(天野元政の嫡男で右田毛利家当主)とその妻・松崎。




私が嫁いでからあまり会わなくなった父が、腹違いの兄弟とともに私の夫が治める地にやってきた。
ただそれだけのことなのに、私は酷く不安になって、父と兄弟に会わないように自分の部屋に逃げるように隠れた。
そんな私に夫は心配してこういった。

「松崎、宍戸殿に会わなくてもいいのか?仮にもあなたの父だろ?宍戸殿ももうお年であるし、次会える日があるかわからないぞ?」
「いいのです、父に会いたくないのです」

父はいつでも私の大切な物を奪っていった。
本人にその気が無くても、結果からすると父に私はいつもなにか奪われていた。
今度は父に何を奪われるのだろうか?
そのことを考えると、怖くて怖くてたまらない。
不安でたまらなくて、夫にそばにいてほしいが、これから父に会って話すであろう夫を引き止めるわけにはいかない。

「大丈夫か?松崎…顔色が悪いぞ?」
「すみません…」
「そこまで宍戸殿に会いたくないという理由はよくわかった。だが俺は松崎と違って会わねばいけない…だから手を離せ」
「え?あっ…すみません」

無意識のうちに夫の手を掴んでいたらしい。
夫に指摘され、手を離すと夫はわざとらしくため息をついた後、私の頭をぞんざいに撫でた。

「松崎…」
「はい」
「できる限るすぐ戻る。だからそんな今にも死にそうな顔をするな、俺が戻ってくるまでにはいつもの強気な松崎に戻れ」
「…はい、殿」
「松崎がそんなに弱気だと気が狂う。松崎は毒舌なくらいが俺にはちょうどいい」

私を励まそうと必死になってそういってくれる夫に私は思わず笑ってしまう。

「殿…」
「なんだ、松崎」
「殿は私が毒舌なのがお好きでかつ殿が私に罵られるのが趣味らしいので、あなた様が帰ってくるまでその私に戻りますね」
「おいおい…松崎、俺はそこまでいってないし、罵られるのが趣味なわけじゃない。ただいつものお前に戻ってもらわないと調子が狂うだけと言う話だ」
「はい、わかってますよ殿」
「…わかったならいい。俺は行ってくる!」
「あの、殿…」
「…なんだ?」
「戻ったら、父と何の話をしたか教えてくださいませ」
「わかった。後で話そうな」

そういって殿は再び私の頭を今度は丁寧に撫でた。
その撫で方はとても暖かく、私の心の不安は消え去った。

「お話、楽しみにしておきますね…殿」




話が終わり、父が帰ると殿は約束通りまっすぐに私の部屋にきた。
部屋につくと殿はなんだが慌てていて、私が何を尋ねても、ああだのそのだのいって返事をまともに返してくれない。
しばらくして殿の頭の中が整理できたのか、私の目を見てはっきりとこういった。

「あのな、大変言いづらいんだが…領地交換だそうだ」
「…はい?」
「本家の命令で俺のこの三丘と、宍戸殿の右田の領地交換が決まったそうだ。移るために荷造りとは、面倒だな」

父と殿の領地交換、本家の命令、荷造り…
そんな言葉が頭の中をぐるぐると回る。
そして、最終的にたどり着いた答えは…
今は亡き母をこの地に置いていくことだった。
私の母の墓はこの地にある。
母が私を頼ってこの三丘に訪れ、そしてこの地でその命を終わらせたとき、殿が私の母の墓を自分の父親の墓の隣に建ててくれたのだ。
ここを出るということはつまり…

「そんな…!殿は亡き我が母をこの地に置いていけというのですか?父に見捨てられ、この地で死んでいった母を、また一人にしろとおっしゃるのですか?」
「そんなことはいってないが…結果をいえばそうなるな」
「殿は酷い!私と母が宍戸の家で辛い目にあったことを知っているのに、母を死しても辛い目に遭わせるというのですか?」
「落ち着け、松崎」
「落ち着けと?母を捨てた人がこの地を治めてこの地で母と同じように眠るかもしれないというのに、落ち着けと?殿はひどうございます」
「松崎、辛いのはお前だけじゃない。俺だって、誰よりも尊敬した父をこの地に残して行くんだ、松崎…辛いのは、お前だけじゃないんだ」

殿はそういって私を抱きしめる。
ああ、そういえばこの人も父をこの地で亡くしていた。
この人がこの地を出ると言うことは、殿もこの地で眠る自分の父を置いていくということなのだ。
私は自分勝手でそのことに気がつけなかった。

「松崎…この地に想い出があるのはわかる。俺だって、関ヶ原で負けて、安芸からこっちに父上たちときて、慣れぬこの土地で試行錯誤で過ごしてきたんだ。この土地にきて、いろいろあった。松崎の母上が俺たちのもとにきて、一緒に暮らし、この地で死んだ。俺の父上も日頼様の供養塔を建てて、この地で死んだ。お互い大切なものがこの地にたくさんある…だからこそ」

殿は抱きしめていた私の体を離し、自分の指と私の指を絡める。
今まであった殿のぬくもりが指先だけになり、どことなく寂しい気分になる。
殿はそんな私の想いに気づかず、こう続ける。

「あえてその想い出を置いていこうじゃないか。俺も松崎も、いい意味でも悪い意味でも今まで亡き親の想い出に囚われていた。だから、この地に想い出をすべて置いて、すべて零にして右田の地で、新たに俺と『夫婦』を始めてみないか?」

殿はそういって、満面の笑みを私に向けた。
この人がこんな風に笑うなんて、いったい何年ぶりなんだろう?
少なくても、私は殿がこんな風に笑う姿なんて、殿の父上が亡くなってから一度も見たことがない。
久しぶりにみた夫の笑顔に、私もようやく決心がついた。

「あなたがそういうのなら、新しく『夫婦』とやらを初めてやってもいいですわ。どうせ私はあなたの側しか行くあてがありませんし、居場所もありませんもの」
「たまにはもっと素直に『わかりました』っていえないのか?お前は…相変わらず気が強く可愛げがない」
「その気が強く可愛げのない女を妻にし、愛しているのはあなた様でしょう?まったくご趣味が悪いこと」
「ははっ…違いない。そんな性格じゃないと、毛利の嫁が務まらないし、松崎みたいな気難しいやつの夫になれるのなんて俺しかいないぞ」

この人なら、きっと死ぬまで私から何も奪わない。
私のそばにいてくれるし、愛してくれるだろう。
私を、宍戸に返したりしないだろう。
だから、私はこの人に死ぬまでついて行こう。
この人が望むなら、大切な想い出はすべて置いて、父が過ごしていた新しい土地で、新しく私たち夫婦もやり直してみよう。
きっと、多分…絶対とはいえないけれど、新しい土地ではこの人と今よりいい毎日を過ごせる気がする。

「あなた様がご命令されるのなら、この松崎、どこまでもついていきますわ」

めったに言えない本心を殿に語ると、殿はまるで純粋な若者のように顔を赤く染めて照れて見せた。

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