雷の錬金術師

□第18話
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暗闇を縫うように、ウルクは裏路地を走っていた。
あれから、リザと共にロスの事を探り色々と分かった。そして、ウルクがファルマンの事を思い出したのだ。通称、歩くデータバンクの彼ならもっと何か知っているかもしれない。
そう思い、前にハボックに連れられていったホテルへ向かっているウルク。人通りが少ないようで、何度か足を運んだ自分の匂いがはっきりと残っていて助かる。
ウルクは、全速力で、でも鼻に意識を集中させながら駆けていった。

「は…あった…!」

やっと見付けた目当ての建物に飛び込みダッシュで階段を駆け上がる。勢いよく飛び込んだせいで入り口の扉が歪な音をたてたが無視しておこう。
部屋が何処かはすぐに分かった。人の匂いはそこからしかしない。やはり、此処はホテルとしては機能していないようだ。

「ファルマン」

ゴンゴンと乱暴に扉を叩く。
だが、しばらく待っても返事はない。

「俺だよ、ライ…ファルマン?」

確かに中から匂いがするからいないという訳では無い筈だが。
名前を言ってもう一度扉を叩いたが、やはり返事はない。

「…まさか、誰かにバレたとか…」

ウルクは一瞬頭をよぎった最悪の事態を振り払うように頭を振る。
もう少しだけ待ってみたがやはり一切反応がない。
此処でこうしてても、らちがあかない。ウルクはパンと両手を合わせ、扉にあてた。

「ったく、ファルマンいるんだろー」

鍵を錬金術でこじ開け、勝手に中に入る。
改めて叫んでみるが案の定何も言葉は返ってこないので、仕方なく匂いを辿っていく。
辿り着いて、目に入ったのはかけ途中の受話器が外れた電話器。だが本人が見付からない、と思った瞬間、ウルクは何かを踏んだ。

「ん?…はあああ!?」

何と、踏んでいたのはファルマンだった。頭に大きなコブを作り完全に気絶している。
やはり敵襲か、と辺りを睨むが、ある事に気が付いた。

「…バリーは?」

あの特徴的な血の染みた鉄臭い鎧の匂いがしない。念のため、部屋の中を探し回ってみるが、バリーの姿はない。
かろうじて電話に鉄臭い匂いがうつっているのは分かった。おそらく、バリーがファルマンを電話器で殴るか何かして逃亡を図ったんだろう。

「っ…あの野郎!」

ウルクは、神経を研ぎすませバリーの匂いを追ってそこを後にした。
微かなバリーの匂いを辿りながら大分ホテルからは遠くに離れていく。
気絶したファルマンを放置して出てきた事にウルクが気付いたのはそれから更に30分近く後の事だった。
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