雷の錬金術師

□第13話
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師匠に会う、とエルリック兄弟に案内されて辿りついたのは何のへんてつもない只の肉屋だった。
ガタガタと店の前で震える二人をウルクは不思議そうに眺めていたが、やはり動く様子がない。
その時、後ろに人の気配を感じてウルクはばっと振り向いた。

「へいらっしゃい!」
「「ぎゃあ!」」
「どうぞ中に入って…」

そこにいたのは肉屋の店員らしい、元気のいいお兄さん。過敏になっているエルリック兄弟はそれだけで腰を抜かして驚いていた。

「あれー?エドワード君?ひっさしぶりぃ!」
「メイスンさんだっけ?こんちわ…」

メイスンという肉屋のお兄さんはエドと面識があるらしく、笑顔で親しげにエドの頭を叩いた。

「あっはっはー!すっかり大きくなって!」
「(これはこれでムカつく…)」

続いて、メイスンはアルに視線を移した。

「此方の鎧の人は?」
「弟のアルフォンスです」
「…すっかり大きくなって…」

大きくなりすぎ、というか状況を飲み込むのに時間がかかって、メイスンは驚きを隠せないままそう呟いた。

「あれ、エドワード君?あれ?」
「あ、俺はライです。エド達と今一緒に旅してて」
「こいつも錬金術師なんだ。だから、師匠に会ってみたいって」
「へー…よろしく!」

明るい声で振り向かれたが、ウルクは少しこのテンションについていけてない。

「イズミさんに会いに来たんだろ?待ってな。今呼んで来てやっから」

メイスンはそう言いながら、ウルク達を裏口に案内した。

「丁度よかったね!イズミさんね、つい先日旅行から帰って来たばっかりなんだよ」
「「(まだ旅行に行っててくれればよかったのに…!)」」
「あっ店長!」

エルリック兄弟の心の叫びなど露知らず。メイスンは笑顔で店の裏口から中に入り、明るく店長を呼んだ。

「裏に珍しいお客さんが来てますよ」
「客だぁ?」

いかつい声の後に、ドスドスとまるで熊のような足音が近付いてくる。

「っな!?」

裏口からまず見えたのは、血の滴る肉切り包丁だった。続いて、地面にひびをいれる大きな足。
ドアについた手の辺りからはめこっと明らかにドアが壊れる音がした。

「あ?」
「ど…どうもお久しぶり…です」

出てきたのは筋骨隆々とした巨漢。そんな相手に威圧感たっぷりにギンと視線を向けられればエルリック兄弟も縮み上がるしかないだろう。

「…エド…か?」

大男はそう言うと、かっと目を見開いてぐわっとエドに手を伸ばした。
何かと思いウルクは一瞬身構えるが、なんとその手はエドの頭をわしわしと撫でていた。

「よく来た。大きくなったな」
「(縮む…!)」
「此方は?」
「アルフォンスです。ご無沙汰してます」
「そうか」

鎧姿のアルにどうするのかと思えば。
大男は、アルの頭もエドと同じように普通にわしわしと撫でていた。

「凄く大きくなったな」
「(鎧になってから初めて頭撫でられた…)」
「で、此方の子は?」

ようやく、ウルクに視線が移った。

「俺達と一緒に旅してる錬金術師です」
「ライです。えっと…」
「シグだ。シグ・カーティス、よろしく」
「よろしくお願いします」

差し出された大きな手をとり軽く握手をする。見た目に反して、と言ったら悪いがシグは正にその代名詞のようだ。
中身はすごく優しい人らしい。

「急にどうした」
「師匠(せんせい)に教えて貰いたい事があって…」
「ああ此方来な。メイスン、しばらく店頼む」
「へーい」

そして、シグに連れられてウルク達は肉屋の隣の家へ向かっていた。
道中、ウルクはひたすら繰り返し同じ事を思っていた。

「(師匠ってこれじゃないのか!?)」

これから会いに行く、ということはシグではないということだ。
エルリック兄弟の話を聞くと、かなり恐ろしい話しかないので勝手にシグのようないかつい男を想像していたが、どうやら違うらしい。
ウルクはシグを見て不思議そうに首を傾げた。
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