雷の錬金術師

□第12話
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ざーざーと耳を突く轟音に、ウルクは目を覚ました。大粒の雨が汽車の窓を叩く。
ウルクはうざったそうに、眉を寄せて、窓枠に顎を乗せた。

「ひっでー雨…お、雷鳴った」

時折ゴロゴロと稲光が鳴る。それを見てウルクは自分の手に視線を落とした。機械の左手を窓に付いてみる。
窓の外では、まだ雷が鳴り響いている。
こういう雷雨の日はテンションは上がるが、左肩が疼く。火傷の古傷がぴりぴりと痛む。ぐっと右手でそこを押さえて目を伏せた。
ふと、窓に映る自分の目を見つめてみる。

「…本当だ、猫みたい」

エドに言われてから、さりげなく気になっていたのだ。ライの瞳孔は猫のようだ、と。
確かに縦長のアーモンド型、猫のそれのような形をしている。

「はぁ…嫌だな、なんか」

ウルクは窓枠に組んだ腕に顔を埋めた。

「…動物…合成獣みたい」

ウルクは、自分のもう一度だけ目を見て辛そうに視線を下げた。

「皆様!連絡です!この雨で先の線路が増水で使えなくなりましたので、次の町サウスフッドで停車となります!」

車内を周り、これを言って回っている乗務員はすっかりお疲れモードだ。至る所で客の苦情の対処をしているのだ。
ウルクも、苦い顔で歩く乗務員を呼び止めた。

「なぁ、サウスフッドからラッシュバレーまでどう行けばいい?」
「馬車便が出ているんですがこの天気では…あ、はい!今向かいます!」

そう言うが早いが乗務員の青年は別の客に呼ばれ駆けていった。
ウルクは再び窓を見て、深く溜め息を吐く。雨は一晩は止む様子がない。
出来るだけ早くラッシュバレーに行きたかったのだが、今夜はサウスフッドに泊まる事になりそうだ。
ぼーっと雨を眺めていれば、汽車はゆっくりと駅に止まった。
ざわざわと互いに不満を漏らしながら降りてくる人波に押されながら、ウルクは汽車を降りた。トランクを片手で担いで駅の出口まで歩いて行く。

「…うわ、んだこりゃ」

最早苦笑いするしかない。一歩先も見えない程の豪雨。なんとか屋根づたいに濡れないように移動して駅は出たが、さぁどうしようか。
宿を探すにしろ何にしろ、この雨の中を行かなければならない。正直、嫌だ。

「いっそ駅のベンチかなんかで寝るか…お?」

あーだこーだぶつぶつ言いながらその場をうろうろしていたら、一台の馬車が見えた。
その御者席には見覚えのある人物が座っていた。

「ドミニクのおっちゃん!」
「ん?…おお、ウルクか、どうした」
「その呼び方は止めろって言ってんじゃん…つかおっちゃんこそ何で此処に」

座っていた強面の老人はドミニク・レコルト。機械鎧の聖地ラッシュバレーでもトップクラスの職人だ。ウルクの機械鎧を作ってくれたのも彼だ。
めったに山の奥の仕事場から出てこない彼が何故こんな隣町まで足を伸ばしているのか。
ウルクは首を傾げて馬車に近付いた。
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