雷の錬金術師

□第11話
1ページ/7ページ


「…好きで…こんな身体になったんじゃない…」

ぐっと拳を握り締め、アルはそう繰り返した。
ウルクは、入ってきていきなりこんな場面に遭遇し目を丸くするウィンリィと目を合わせて、またエルリック兄弟を見た。

「あ…悪かったよ…そうだよな、こうなったのも俺のせいだもんな…だから一日でも早くアルを元に戻してやりたいよ」

エドは罰が悪そうに、軽く下を向き途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

「本当に元の身体に戻れるって保証は?」
「絶対に戻してやるから俺を信じろよ!」
「『信じろ』って!この空っぽの身体で何を信じろって言うんだ…!」

苦い顔で続きを話すエドの言葉を遮って、アルはそう言った。

「錬金術において人間は肉体と精神と霊魂の3つから成ると言うけど!それを実験で証明した人はいたかい!?」

ロスとブロッシュは状況を呑み込めないようで、クエスチョンマークを飛ばしているが、ヒューズは黙ってアルを見つめ続けた。
ずっとつかえていた栓が抜けたのか。水が流れるように、アルは直も喋り続ける。

「『記憶』だって突き詰めれば只の『情報』でしかない…人工的に構築する事も可能な筈だ」
「お前何言って…」
「…兄さん、前に僕には怖くて言えない事があるって言ったよね」
「っ!」

何故か、その言葉にウィンリィがぴくっと反応した。

「それはもしかして僕の魂も記憶も本当は全部でっちあげた偽物だったって事じゃないのかい?」

エドは、アルの言葉に目を見開いた。

「ねぇ兄さん。アルフォンス・エルリックという人間が本当に存在したって証明はどうやって!?そうだよ…ウィンリィもばっちゃんも皆で僕を騙してるって事も有り得るじゃないか!」

アルはそのまま怒濤のように畳み掛け、エドの方を向く。

「どうなんだよ兄さん!」

全てをぶつけるように、アルはエドに向かってそう叫んだ。
ガンと、エドは大きな音をあげて机を拳で叩いた。
カシャンとフォークが地面から落ちるが、誰一人微動だにしない。
エドは下を向いたまま、絞り出すように口を開いた。

「―ずっと、それを溜め込んでたのか?言いたい事はそれで全部か」

怒っていそうな低いトーンで問われて、アルは少し躊躇い気味に軽く頷く。

「―そうか」

ベッドから立ち上がってアルの横を抜け、廊下に出ていったエドは、まるで泣き出してしまいそうな切なさと苦しさ半々の表情を浮かべていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ