雷の錬金術師
□第10話
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消毒液臭い部屋の中、ベッドの上でウルクは目を覚ました。
エンヴィー達と分かれて、エルリック兄弟を探して出会ったはいいがそのまま倒れてしまったのだ。
ウルクは自分のひ弱さに舌打ちをして、隣で眠るエドに視線を移した。ウルクよりも重傷なようだ。入院して数日たつがまだ目を覚まさない。
と思っていたら、ようやくエドが目を開けた。体を起こし辺りを見回すエドは、何故か不機嫌そうにむすっとしている。
「ようエド」
「ライ!お前その傷なんだよ、あの後何が…」
「あ、エドワードさん!」
タイミングよく、ブロッシュとロスが部屋に入ってくる。
「起き上がれるようになりましたね…あ、ライさん。頼まれてた本を持ってきましたよ」
「此処は?」
「ロス少尉の知り合いの病院だってさ」
ウルクはブロッシュから本を受取り、エドに背を向け表紙を捲る。どうやら会話に加わる気は無さそうだ。
「軍の病院だと色々訊かれた時に不味いだろうと判断しまして…此処なら静かに養生出来ますよ」
「あーくそ痛ぇ…」
腹の傷がずきずき痛む。エドはそこを手で押さえ眉間に皺を寄せた。
「もう少しで真実とやらが掴めそうだったのに…入院なんてしてる場合じゃないよなぁ」
悔しそうに額に手をやるエドを見て、ロスとブロッシュは視線を交す。
そして軽く頷いてエドに向き直った。
「鋼の錬金術師殿!」
「先に無礼を詫びておきます!」
「へ?」
いきなりびしっと態度を改める二人に、エドは目を丸くする。
その声に何かと思って振り返ったウルク。その振り返った瞬間に目の前をロスの手が宙を舞った。
ばしーん、と勢いよくロスがエドをビンタしたのだ。
エドはぐわんぐわんと揺れる頭で、茫然とロスを見つめる。
「あれほどアームストロング少佐が勝手な行動をするなと言ったのにそれを彼方達は!今回の件は彼方達に危険だと判断したから宿で大人しくしていろと言ったのに!」
エドは目を丸くしてぽかんとしたまま、怒鳴られている。
「少佐の好意を無視した上に下手したら命を落とす所だったのよ!?まず自分はまだ子どもなんだって事を認識しなさい!」
ロスの説教を聞きながら隣でブロッシュがうんうんと頷いている。
ウルクも、エドの隣のベッドでぽかーんとロスの言葉を聞いていた。
「そして何でも自分達だけでやろうとしないで周りを頼りなさい…」
ロスは、ふーと息を吐き額に手をやる。
そして、エドを見据える。
「…もっと大人を信用してくれてもいいじゃない」
そのロスの言葉に、エドは下を向いて何も言わなかった。
「以上!下官にあるまじき暴力と暴言お許し下さい!」
ロス達はびしっと姿勢を再び正す。心なし、冷や汗をかいているようだ。
「…あ…いや…俺の方が…悪かった…です」
エドは目を丸くしたまま、途切れ途切れに謝罪を口にした。不似合いな敬語でだ。
「…ビンタのおとがめは?」
「そんなもん無い無い!」
エドの言葉に、ロス達は冷や汗ダラダラでぶはーと安堵の息を吐いた。
「何でそんなに気ィ使うんだよ」
「一般軍人でないとは言え、国家錬金術師は少佐相当官の地位を持ってますからね。彼方の一言で我々の首が飛ぶ事もあるんですよ」
「へー、じゃ俺が誰かにチクっちゃおうかな今のビンタ」
「「ライさん!?」」
「冗談冗談」
「止めて下さいよ心臓に悪い…」
ウルクの黒いジョークに、ロス達は再び冷や汗だらだらだ。冗談と言われてはぁと息を吐いた。