雷の錬金術師
□第9話
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パン、と聞き慣れた錬成音がしてエドは隣にいるウルクに視線を移した。
ウルクは左腕の機械鎧を刃に錬成しエンヴィーに切っ先を向けて、彼の方に歩みを進める。だが、エンヴィーはそれを気にも止めずにウルクに笑みを向けた。
「久しぶりだねウルク。もうずっと会えなくて僕死んじゃいそうだったよ」
「はっ。死ねよ」
にやにやと笑みを崩さずにウルクに話しかけるエンヴィーに、ウルクは嘲笑と暴言で返す。
エドには何が何だか分からないが、どうやらウルクはこのエンヴィーとかいう少年と面識があるようだった。しかも、少なくとも良好な関係では無さそうだ。
「困った子ね。どうやってここの事を知ったのかしら」
「うが…」
48兄のうめき声に、ウルクとエドは、はっとその方向を見た。
「あまり見られたくなかったけどしょうがないわね」
ウロボロスの刺青の女性が、鎧の頭部を投げ自らの長く伸びた爪で破壊した。
「兄者!兄者!兄者ぁ!」
48弟の悲痛な叫びが広間に響く。
兄の返事は、無い。
「ちくしょう!俺達はまだ闘える!身体をくれ…」
いつのまにかエンヴィーはウルクの前から姿を消していた。どこにいったかとウルクが慌てて回りを見回せば、エンヴィーは48の剣を持って48弟の方に歩いていっている。
「新しい身体をくれ!身体を…かっ」
エンヴィーの剣が48弟の血印を貫いた。
「ぐだぐだとやかましいんだよこのボケが!おめーら貴重な人柱を殺しちまうところだったんだぞ?分かってんのか?」
ガスガスと何度も血印を突き刺す。
エドとウルクは、呆然と見ていることしか出来なかった。というか、すぐに状況の理解が出来なかった。
「おまけにこっちの事、バラすところだったしよ。計画に差し支えたらどう責任とるんだコラ!何とか言えコラ!ああ?」
一瞬、エドに向かって伸ばされた48弟の手が地面に落ちた。そして、動かなくなった。
「エンヴィー。もう死んでる」
「あ?あらー根性無いなぁ。ほんっとー弱っちくて嫌になっちゃうね…あーそうそう」
エンヴィーは剣を持ったまま顔を上げる。嘲るようにそう言うと、エドの方を向いた。
そして歩いてきてエドの前にしゃがみこむ。
「初めまして鋼のおチビさん。此処に辿り着くとは流石だね、褒めてあげるよ。でもまずいもの見られちゃったからなぁ…」
エンヴィーはエドにぐっと顔を寄せる。
「やっぱりあんたも殺しとこうか?」
エンヴィーは、にぃっと笑みを深めて今までと変わらない軽い口調で、だが確かに残忍な目を光らせてエドにそう言った。
エドは目を見開き、血が流れる左腹に手をやりぐっと押さえる。