雷の錬金術師
□第7話
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「うっわ。本当になんもねー」
汽車を降りリゼンブールの地に立ちまず一言。ウルクはぷはぁっと深呼吸をしてぐーっと体を伸ばしながらそう言った。
目に入るのはだだっ広い空の青に草の緑、それからなぜか大量にいる羊の白。そういえばリゼンブールは羊毛の産地で有名だとエドが言っていたような気がしなくもない。
「なんもなくて悪かったなっ」
「いや、でも俺ここ好きかも。空気が澄んでるっつーかなんつーか…なんか、好き」
ふわりと香る草の香りにめーめーという羊の鳴き声。正に、のどかな風景が広がっている。
こういうゆったりした気風は慣れていないが嫌いじゃない。
ウルクはきょろきょろと辺りを見回しながらエドの後に続いた。
しばらく歩いて、道の先に一つの家が見えた。玄関先の階段の前に小柄な老人が見える。此方に黒い犬が駆け寄ってきた。
「おっ久しぶりだな、デン!」
「へーデンっつーのか」
デンというその犬はエドの周りにまとわりついてくる。ウルクはデンの頭を撫でようと手を伸ばした。
デンはその手の匂いをふんふんとかぎ、同じようにウルクにまとわりつきごろんと寝転んだ。
「あははっ懐っこいなーお前!」
デンのお腹を撫でてやれば気持よさそうに手を舐めてくる。
あれ、犬、てか動物がお腹見せるのってなんのポーズだっけ。確か…
「ほら行くぞライ」
「わーってる!」
エドに急かされたせいで思い出せなかった。仕方なく、それは忘れて少し前を歩くエドの方に駆けていく。
「よう、ピナコばっちゃん。また頼むよ」
家の前にいた老人はピナコというらしい。丸眼鏡の人のよさそうなおばちゃんだ。
「こっちアームストロング少佐」
「ピナコ・ロックベルだよ」
デンは、下ろされたアルの匂いをかいでいる。
ピナコはアームストロングと握手をしてからウルクに視線を移し、目を見開いた。
「こりゃたまげた…あんたエドにそっくりじゃないか」
「ライ、です」
軽く会釈をすれば、握手と手を出される。その手を取って緩く握ればピナコはにっと笑った。
「しかししばらく見ない内に…エドはちっさくなったねぇ」
ピナコはエドとアームストロングとを見てそう言ったが、アームストロングが比べる相手では誰だって小さく見えるだろう。
「誰がちっさいって!?このミニマムばば!」
「言ったねドちび!」
「豆粒ばば!」
「マイクロちび!」
「ミニマムばば!」
エドとピナコは身長のことでぎゃあぎゃあと言い争う。ウルクは、呆れながらデンの頭を撫でた。
「こらー!!エド!!」
急に、家の上の方から少女の怒号が飛んできた。その声を聞いたエドの顔は青ざめていた。そして次の瞬間。
「ごふ!!」
がいん、と勢いよくスパナが飛んできたのだ。しかもそれはエドの頭にクリーンヒットした。
「メンテナンスに来る時は先に電話の一本でも入れるように言ってあるでしょー!」
「てめーウィンリィ!殺す気か!」
エドはひりひりと痛む頭を押さえながら声の聞こえた方を見上げる。そこにはツナギ姿にバンダナを巻いた、活発そうな金髪の少女が立っていた。
「あはは!おかえり!」
「おう!」
ウィンリィは笑いながらエドに声をかける。
エドも偉そうに座りながら短く返した。