雷の錬金術師
□第5話
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相変わらず、雨は降り続いていた。
どんよりと曇った空を見上げながら、ウルクは東方司令部への道を一人で歩いている。ウルクにしては珍しく早起きしてしまいやることもないから、と適当に軍へ向かってみたんだが。
たどり着いて知らされた事実に絶句した。
「タッカーとニーナ達が殺されたっ…!?」
「あぁ、昨夜遅くに。我々が駆け付けた頃にはもう…」
「嘘だろ…誰に?」
「私も詳しくは聞いてない。ヒューズが先に現場に行ってくれている。今から行くが、どうする?…かなり酷いことになっているらしいがな」
ウルクは一瞬顔を下げて悔しそうにぐっと拳を握る。ロイはそれを見て連れていくことはやめようと判断したのかウルクから離れようとした。
…が、ウルクはロイの服を掴み、きっと顔を上げる。悔しさやいろいろな感情を押し込めて、複雑な表情をしているがそれでも軍人としての自分を優先して、毅然として言い放った。
「俺も連れていけ、大佐」
「…わかった、同行を許可しよう。先に車で待っていてくれ」
それだけの言葉を交して、ウルクは言われた通り車に向かった。
少ししてロイが現れ、現場に向かう。車内は沈黙に包まれ、誰も喋らないまま現場に到着した。
そこには中央からきていたマース・ヒューズ中佐とアレックス・ルイ・アームストロング少佐がいた。ウルクは軽く会釈をしてから壁にもたれかかり、布が被せられている血の匂いにまみれたモノに視線を落とした。
「おいおいマスタング大佐さんよぉ、俺ぁ生きてるタッカー氏を引き取りに来たんだが…」
ヒューズはしゃがみこみ、遺体を親指で差してロイに声をかける。
「死体連れて帰って裁判にかけろってのか?」
布の下からはタッカーのものであろう腕がのぞいている。それを見てウルクは一瞬目を反らし、だが苦い顔で視線を戻した。
「たくよ、俺たちゃ検死する為にわざわざ中央から出向いて来たんじゃねえっつーの」
「こっちの落ち度はわかってるよヒューズ中佐。とにかく見てくれ」
「ふん…自分の娘を実験に使うような奴だ、神罰が下ったんだろうよ。うえぇ…案の定だ」
そう言いながらヒューズはタッカーの遺体に被せられた布を捲る。もはや原型をとどめていないような酷いそれに眉を潜める。
ウルクは、よりかかっていた壁から離れ、布の中を覗きこむようにヒューズの後ろに立った。
「…おいライ!見ない方が「…平気、慣れてる」
「そうかもしれないけどお前なぁ…」
感情のはいらない冷たい声色でヒューズの言葉を遮って、ウルクは遺体を見た。
「しゃーない…外の憲兵も同じ死に方を?」
「ああそうだ、まるで内側から破壊されたようにバラバラだよ」
確かにそうだ。本当に、文字通りバラバラなのだ。
人間技ではないような凄惨なそれにウルクは冷や汗を拭い、息を呑んで観察をしていた。