雷の錬金術師

□第4話
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一騒動あった駅から移動して、ウルク達は軍の東方司令部の執務室にきていた。ロイは足を組んで愛用の椅子に座り、エドとアルは手前の客用の椅子に腰かけている。ウルクはロイの机によりかかって、ある書類を彼に投げ出した。

「はいよ、頼まれてたの持ってきた」
「あぁ。いつも助かるよ…」

その書類を確認してロイは軽く判子を押す。ウルクは半ば呆れながら机に腰掛けた。

「ったく…このサボり魔が」
「また頼むよ」
「たまには自分でいけよ!」
「君のレポートは上から中々評判でね、私の株をあげるためにも協力してくれ…それから、行儀が悪いぞ降りたまえ」

全く悪びれないようすで書類を整えるロイに一つ舌打ちをして、ウルクはエドの隣に用意された椅子に座る。
隣のウルクに、ぼそぼそとエドが耳打ちした。

「なぁ、あれなんなんだ?」
「あ、あれ?査定の書類だよ。大佐に頼まれて俺が行ってたやつ」
「…それはいいのか?」
「本当はダメ、東部の奴らは皆知ってるけどさ」

そんなライの言葉と、さっきの悪びれない態度。本気でロイの普段の仕事ぶりが心配になったエドだった。

「それはそうと…今回の件で一つ貸しができたね大佐」

にやりと笑ってエドは話を切り出した。ロイはめんどくさそうに溜め息をつき、そのまま話を続ける。

「…君に借りを作るのは気色が悪い。いいだろう何が望みだね」
「さっすが、話が早いね。この近辺で生体錬成に詳しい図書館か錬金術師を紹介してくれないかな」
「今すぐかい?せっかちだな全く」

そうはいいながらもロイは棚にある書類を引き出す。一応、錬金術師を紹介してくれるようだ。

「俺達は一日も早く元に戻りたいの!」
「久しぶりに会ったんだからお茶の一杯くらいゆっくり付き合いたまえよ」
「…野郎と茶ぁ飲んで何が楽しいんだよ…」

エドは軽くロイを睨む。が、ロイはそんなエドの言葉を無視して、目当ての錬金術師の書類を見つけたらしい。

「ええと確か…あぁこれだ、『遺伝的に異なる二種以上の生物を代価とする人為的合成』…つまり合成獣錬成の研究者が市内に住んでいる。『綴命の錬金術師』ショウ・タッカー」

そこまで言って、ロイはウルク達を車に案内した。
道中の車内でタッカーの説明は続いている。二年前に人語を使う合成獣の錬成に成功して資格をとったらしい。

「二年前といったらお前もそのときの試験でじゃなかったか?ライ」
「あーそうそう…タッカーか…覚えてないや」
「てか人語を使うって…人の言葉を喋るの?合成獣が?」

エドは目を丸くして、ロイの説明に耳を傾ける。だが、ウルクは大して動揺は見せず、浮かない顔で窓の外を眺めていた。

「そのようだね、私は実物を見てはいないのだが人の言う事を理解し喋ったそうだよ。只一言、『死にたい』と…その後、餌も食べずに死んだそうだ」

一瞬で空気が重くなる。それを見て書類をたたみ、ロイは口を開いた。

「まぁとにかくどんな人物か会ってみる事だね…それとライ」
「何?」

急に話をふられたウルクは気だるげに窓から視線を移す。少し心配そうなロイを見て、なんとなく続く言葉は予想がついた。

「今更だがきて大丈夫なのか?合成獣錬成の研究者だぞ」
「…知っててついてきた。俺も生体錬成については知りたいこともあるし」
「無理はするなよ」

はいはい、と適当に返事をして再び窓の外をぼーっと見る。交された会話の意味が分からなくて、エドはロイとウルクとを交互に見て、ウルクに声をかけた。

「な、ライ。今のどーいう意「ついたぞ、鋼の」…てめぇ空気読めよ大佐ぁあ!」

がー!とロイを噛みつくように睨めば、もうウルクは外に出ていて聞くタイミングを逃してしまった。
全員が車を降りて、タッカーがいるという大きな家の前に立った。
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