雷の錬金術師
□第22話
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スカーとの戦闘中、彼にウィンリィの両親の事を問うた瞬間に、ウィンリィ本人がその場にきてしまったらしい。
そして両親の事をきちんと全て説明して、今に至る。
ウルク達はセントラルの駅に来ていた。ウィンリィがラッシュバレーに戻ると言うのだ。
「本当に一人で大丈夫か?」
「うん、ラッシュバレー駅にはガーフィールさんが迎えに来てくれるって言うし」
エドが控え目に声をかければ、すぐにそう返される。
それ以上の会話が続かない。
ウルクも、どうすればいいのか分からなくて、只前を歩くウィンリィを見つめていた。
「――あの時」
ふいにウィンリィが歩みを止めた。
「止めてくれてありがとね」
ウルク達も立ち止まる。
「あたしにも待っててくれる人達がいるんだよね。その人達に顔向けできなくなる所だった」
一体何の事を言っているのだろうか。分からないけど、ウルクは何と無く察していた。
きっとさっきエドに聞いた事だろう。スカーを両親の仇だと知り、ウィンリィは一度彼に銃を向けたそうだ。
だがエドに止められた。『お前の手は、人を生かす手だ』と。
ウルクは改めて、ウィンリィを見た。
「父さんと母さんの事はまだ心の整理がつかないけど。皆、待ってるから…」
ウィンリィは、初めて此方を向いた。
「皆のおかげで耐えられる」
緩やかに笑っていたウィンリィを見て、ウルクは少し目を丸くしていた。
自分には出来ない。ウルクの持っているものとは違う強さに溢れていた。
汽車も辿り着き、乗り込むウィンリィを見ながら、ウルクは複雑そうな目をしていた。
「エド、ライ」
ウィンリィに呼ばれ、はっと顔を上げる。
「機械鎧の手入れ忘れないでね」
「おう」
「うん、わかってるって」
あくまで平静を保ちながら返事を返す。
ウルクは苦笑いで、左腕を握った。
「今度いい磨き油送るね、アル」
「うん」
そこまで言って、少しウィンリィの顔が曇った。
「……死なないでね」
「おう!」
「うん!」
「…ああ」
ウルクだけ返事が少し遅く言葉を濁している。
ウィンリィは寂しそうにウルクに笑いかけた。
「…今度…」
「え?何?聞こえないよ」
ジリリと発車のベルが鳴り、汽車が動き出す。
それに被るようにエドが何か口を開いたがやはりウィンリィには聞こえない。
「兄さん?」
「待てよエド!何が…」
「エド、何言ったのよ!聞こえなかったんだけど、何なのよ!」
くるりと後ろを向いてズンズン歩いていってしまうエド。
ウルクとアルは慌ててエドに駆け寄っていく。
しばらくして、エドは急にピタリと足を止めた。ぐるっと汽車の方に振り向く。
「今度お前を泣かせる時は嬉し泣きだ!絶対アルと二人で元に戻って嬉し泣きさせてやっからな!覚えてろ!」
ウィンリィを指差してエドは一息で叫びきった。
ウルクとアルは顔を見合わせ、肩をすくめる。
ウィンリィは目を丸くして、そして、笑った。
汽車が行くのを見送り、ウルクとアルは顔を合わせにやりと笑う。
「うわエド青春!?」
「兄さん青春くさっ!」
「うっせーバーカ!」
「約束は守る為にあるんだよ」
「俺が今まで約束破った事あるかよ!」
「大アリだよ」
冷やかすようにエドを笑いながら、三人は駅を後にした。