雷の錬金術師

□第22話
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「あ、中尉此処でいい」

サン・ルイ通りの標識が視界に入った。
憲兵が集まっているし、辺りは滅茶苦茶になっている。戦闘があったのはおそらく此処だろう。
ウルクをその場に下ろして、リザは更に車を走らせて行った。

「…やっぱり」

エルリック兄弟がいた匂いが残っている。ウルクは小走りで憲兵の群れの中に入っていった。

「鋼の錬金術師殿!?先程スカーの方に行かれたのでは「だーかーら俺は違うの!鋼じゃない!雷の錬金術師だ!」

たった数分で幾度この会話を交した事か。ウルクは、声をかけてきた青年に苛立ったように声を荒げて返事を返した。
ウィンリィがいた匂いはするのだが、本人の姿が見当たらない。とりあえず彼女の匂いを追ってみるが、何も無い所で途切れてしまう。

「っかしーなー、確かに此処で…あ、憲兵さんちょっといいか?」

立ち止まっている横を通った憲兵をがっと掴んで。憲兵が一瞬身震いした気がするが放っておこう。

「さっきこの辺りで女の子保護されたよな?鋼の錬金術師の身内の」
「はいっ!」
「そいつ、今何処にいるか分かるか?」
「はいっ!か、彼女なら先程中央司令部に…」
「司令部ぅ?」

パッと手を離され、憲兵は早足でウルクから離れていこうとした。
が、彼は再びウルクに捕まっていた。

「連れてけ、命令だ」
「はい!?」
「早くな」

憲兵を引きずり車に乗せ、自らも後ろに乗り込み。
ウルクは中央司令部へと向かった。




「…まだか?」
「まだです!」
「……まだ?」
「はい!」

車に乗ってから結構な時間が経った気がする。
冷酷非道と伝説な雷の錬金術師と同じ車にいる。しかも二人きりで。憲兵はそれにすっかり縮み上がっていた。

「遅くね?」
「は、スカーの事で色々な場所で渋滞がおきていまして…」
「…ちっ、使えねぇな」

ウルクの機嫌の悪さもピークに達してきた。聞こえてきた舌打ちに、憲兵は最早半泣きだ。
だが先程からあまり渋滞の列が進んだようには見えない。

「あっ!待て!」
「はいぃ!」

そんな風にびくびくしていたところに、急にウルクの大声だ。思わず返事が裏返った。ブレーキをかけはしたが、正直かけなくてもあまり変わらないだろう。
ウルクは反対側の車線を見つめていた。

「…いた…」

こういうときアルは便利だ。目立つ鎧が、車内に見える。
司令部の方から来ているということは無事に再会して司令部を出れたんだろう。
エド達の乗っている車は、角を曲がっていった。あの方向はホテルの方だったか。

「憲兵さん行き先変えて。あのそこの角曲がった方のホテルまで」

反対車線に乗り入れて、がっと角を曲がる。こちら側は大分車が少ない。
すぐにホテルにたどり着けた。

「此処でいい。もう戻っていいよ」

ウルクを下ろすが早いが、車はすぐに司令部の方に向かっていった。
ウルクはそれに軽く肩をすくめ、ホテルに入って行く。

「あれ、何してんのエド」
「ライ!」

入ってすぐのロビーに三人はいた。
エドは、しっと口に指を当てる。そして視線で受付を示す。ウィンリィが電話中だったのだ。
ウルクはエドの向かい側に座った。

「電話、誰?」
「ラッシュバレーのお客さんだって」

ぼそぼそと小声で尋ねれば、後ろから同じく小声でアルが教えてくれた。
言われてみれば、電話口からわいわい騒いでる声が聞こえる。口々に、早く戻ってこーいだの、ウィンリィを待つ声が聞こえる。

「…うん、ごめんね。すぐ戻るね」

しばらく黙って聞いているだけだったウィンリィが、ぽつりと口を開いた。

「待っててね。頑張るから、頑張るから…」

つうっとウィンリィの頬を涙が伝う。

「ありがとうね…」

涙で震えながらもしっかり発せられた声が、ロビーに響いた。
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