雷の錬金術師
□第22話
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フュリーの家は、通信機器で溢れかえっていた。
ロイは辺り1面に散らばるチャンネル表を眺めながらヘッドホンを付ける。ウルクとリザもヘッドホンを付け、機器の調整をして。ウルクは後をつけられていないか、鼻を動かし辺りに目を光らせていた。
「憲兵司令部のチャンネル…あった!流石だなフュリーめ」
「…何であんだよ」
要するに、盗聴だ。
ロイはチャンネルを合わせ、通信スイッチを入れた。
「中央3区憲兵隊、現在スカーと交戦中!至急応援求む。繰り返す、至急応援求む…うあっ!貴様何をする!ぐわっやられた!」
鼻をつまみ声を変え、偽の情報を流しブツンと電源を切る。
「よし!次は17区だ!はははは楽しくなって来たぞ!」
続いて別の区のチャンネルに変え、またも偽の情報を流していく。
高笑いするロイの後ろで、リザとウルクは呆れたように肩をすくめた。
「中央憲兵司令部より第8区へ。スカーと少年が交戦中!少年は国家錬金術師!発砲はするな!」
ロイの言葉に対する動揺の声が次々に聞こえてくる。
誤報に随分軍部はかき乱されてくれているようだ。
ウルクはロイと顔を合わせ、にやりと笑った。
かなりの時間が経った。時折誤報を発信しながら、スカーの情報に耳を傾けてきたウルクは、次々に耳に入る言葉の群れの中にある言葉を見つけ目を見開いた。
『8区、サン・ルイ通りで少女を保護』『鋼の錬金術師の身内らしい、丁重に扱えとの事』
鋼の錬金術帥の身内の少女、つまり、ウィンリィだ。
何故彼女が戦闘現場にいるのか。疑問はあるがそれどころではない。
ウルクはヘッドホンをがっと押さえ、更に情報を待ったがそれ以上は何もなかった。
「そろそろか…中尉、サン・ルイ通り辺りだ。援護に行ってくれ」
「はい」
「郊外に使える空家がある、何かあったらここで落ち合おう」
「はい」
「つけられるなよ」
「はい」
リザはテキパキと軍服を脱ぎ銃を持ち、ロイから空家のメモを貰う。
さりげなく正体を隠す為にフュリーの眼鏡をかけていた。勿論、レンズは抜いてある。
「待って」
ウルクはヘッドホンを外し、バッと立ち上がった。
「連れてって欲しい…途中で下ろしてくれていいから」
「どうした」
「ウィンリィ…エドの機械鎧技師の女の子な、あいつが軍部に保護された。行かせてくれ」
「場所は分かっているのか?」
「知らない、とりあえずその現場に行く」
そう言いながらウルクは、すでにここを出る準備を済ませていた。
軍の暗部を次々に掴んできた最近だ。軍に保護されたというウィンリィが心配なのだ。
「ライ、あなたは大佐の護衛にのこっ「中尉、いい」
ロイは、ウルクをなだめるように口を開いたリザを手で制した。
「行ってこい」
ウルクは一瞬驚いたように目を丸くして、そして、力強く頷いた。
「と言うことで、頼んだぞ中尉」
「分かりました」
「ありがと中尉」
「ええ…大佐、進展があったらここに連絡を入れますから動かないで下さい」
「ああ」
「…現場に出て来ちゃダメですよ!」
「分かってるよ」
釘を刺すように強調されて聞こえたリザの言葉に、ロイは苦笑いだ。
そんな二人の様子にウルクはふっと笑みをこぼす。が、すぐにきっと目を光らせ、リザの車に乗り込んだ。