雷の錬金術師

□第22話
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「マルコーさんと賢者の石が行方不明!?」

ブレダがマルコーの家に行った時には、すでに荒らされも抜けの殻だったそうだ。賢者の石も無くなっていたらしい。

「おそらく奴らにさらわれたのだろう」
「何で…くそっ!マルコーさんはかつて軍の研究所で石を作っていた、それはイシュヴァールで利用されたと言っていた」

これを話した時、マルコーは本当に恐ろしいものを見るような目をしていた。
唯一と言ってもいい、両親の手掛りを握っていたマルコー。敵はどうやらブレダに化けてマルコーの家に行ったらしい。
ウルクは人造人間、エンヴィーを思い浮かべちっと舌打ちをした。

「賢者の石、人造人間、軍の暗部、イシュヴァール…どういう繋がりだ?イシュヴァールで何があった!?」

エドの声に、ロイはぐっと押し黙った。
少しして、口を開く。

「…イシュヴァールと言えば、スカーが来ているそうだな」

ロイの口からはイシュヴァール内乱と関係無いとは言えないが、明らかに違う話題を持ち出してきた。

「鋼の。ここ数日の奴に見付けてくれと言わんばかりの行動はなんだ」
「見付けて欲しいんだよ。奴とはもう一度闘わなきゃならねぇ」
「馬鹿を言うな!イーストシティの闘いを忘れたのか!?」

車に寄りかかるロイが、さりげなくずっと腹を押さえている事に、ウルクは気が付いた。
確かに、ロイの傷が治るまではまだしばらくかかる筈だったが。何故ロイは普通に軍服を着て仕事をしているのだろうか。
大方、勝手に退院してきたのだろう。ウルクは少しだけ心配そうにロイをちらりと横目で覗き見た。

「あーららスカーが怖いんですかぁ?ですよねぇ!この前は大佐殿は役立たずでいらっしゃいましたからねぇ!」
「なめるな!今日は快晴だ!」
「その代わりヘロヘロじゃねーか。っとに毎度使えねーな!」
「うるさいな!」
「本当にうるせーよお前ら…っ!」

ロイとエドの低レベルなやりとりに、ついに口を挟んだウルク。が、それを言い終わる前にウルクはバッと後ろを振り向いた。
同時にリザもカキンと銃を手に持つ。
振り向いた全員の視界に入ったのは、褐色の肌に紅い目、額の大きな傷。
スカーだ。

「「出た…!」」

ウルクは無言でパンと手を合わせ機械鎧を刃に錬成する。

「…来てしまったではないか鋼の…」
「どーした?雨も降ってねーのにびっしょりだぜ?」

ロイはエドに相変わらずのイヤミを吐く。答えるエドもいつも通りの軽口だが、二人とも冷や汗がダラダラだった。

「っと待った中尉!」

銃をスカーに向けたリザを、エドは慌てて手で制する。

「撃っちゃ駄目だ!」
「何を言ってるの!?」
「大佐を真似て釣りしてみようかと思ってんだよ!」

スカーがバッと右腕を地面につく。破壊されていく地面から飛び退き避けながら、エドはスカーに向かっていった。

「すみませんね大佐」

荒い息のロイを支えたのはアルだ。

「釣りだと?」
「兄さんを餌に人造人間を引っ張り出します。兄さんは人造人間にとって死なせてはならない人材だから」
「何を馬鹿な「犠牲者を出さずに!」

驚愕するロイの言葉を遮り、珍しくアルが声を荒げた。

「進むって決めたんだ!僕か兄さんが餌になるしか無いでしょう!」
「オイオイ困るなぁ…俺だって入れてくれよ」
「ライ…でも、これは僕達の…」
「じゃいい。勝手に餌になってやるから」

相変わらず、ウルクは人の話を聞かない。アルはまだ何か言おうとしたが、無駄だと悟ったのか、何も言わなかった。

「…随分確率の低い賭けだな。人造人間が出て来る前にスカーが憲兵に撃ち殺されたらどうする?」
「そこは、ほら。大佐殿が上手くやってくれるでしょう?」
「この私を顎で使うか…」

ちゃっかりしたものだ、アルはころりと態度を変えロイに明るい声をかける。

「いい度胸だ!」

ロイはにやりと笑みを浮かべた。

「人造人間を捕まえたら分け前をよこせ!」
「了解!…っとライ!お前は大佐と行け!」
「は!?」

エルリック兄弟に続いて、スカーの方に駆け出していたウルクは、思わず変な声をあげた。

「足かばってる、まだ全快じゃないんだろ!大佐のお守り頼む!」
「お守りとは何だ!行くぞ、ウルク」
「ライだ!」

一瞬不服そうにしたウルクだが、それは事実。エルリック兄弟が同時に手を合わせるのを見て、それに背を向けてロイの後を駆けていった。

「――ここは!好都合だ!」

走って少しした所で、ロイは顔をあげた。
ウルクにも少しだけ見覚えのある風景だ。

「フュリー曹長の別宅があるぞ。急げ!」
「え、大…」
「はい」

リザはロイの言葉を聞くが早いが、通りにいたカップルに銃を向けた。

「中央軍です!その車を徴収します!」

そしてその車に乗り込み、フュリーの別宅を目指す。
ウルクは知っていた。向かう先は、フュリーの別宅ではなく本当の住まいだと言うことを。
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