雷の錬金術師

□第13話
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「賢者の石?」
「師匠なら何か知ってるかなーと…」
「私は石には興味が無いからなぁ」

中に入り、エドは早速イズミに本題を切り出していた。

「そんな伝説でしか存在しないようなモン研究してどーすんの?」
「いやっ…ほら知的好奇心と言いましょうか!」
「…賢者の石ねぇ…」

イズミの反応を見る感じ、どうやら知っている事はあまり無さそうだ。
ウルクは、さりげなく挙動不審なエドを見て、話とは関係ないところで楽しんでいた。

「そう言えば、この前の旅行で中央に寄った時石にはやたらと詳しい錬金術師に会ったよな」
「ああ、あの男!えーと確か…『ホーエンハイム』って名乗ってたっけ」

イズミの言ったその男の名に、エルリック兄弟は目を見開いた。

「どんな人でした!?」
「割と背が高くて…金髪眼鏡に顎髭だったかな。年はよく分からなかったけど…結構男前だったよ」

男前、と言う言葉に隣のシグがむっと反応する。
イズミはすぐにバシッとその肩を叩いた。

「やっだぁ!あんたの方がいい男よぉ!」

ウルクももうこのバカップルに慣れてきた。こういうのはスルーに限る。

「生きてたんだ…」
「知り合いか?」
「…父親です、僕達の…」

アルの言葉に、ウルクは目を見開いた。そう言えばエルリック兄弟の父親については何も聞いていなかった。
石に関わる人物、果たしてそれは味方なのだろうか。

「あの昔出てったっていうお前達の父親?丁度いいじゃないかまだ中央にいるかも…「あんな奴!」

イズミの言葉を遮って、エドは拳を握り締め叫んだ。
顔を下げ、悔しそうに言葉を絞り出す。

「あんな奴に頼るのだけはごめんだ…!」
「あ…あの、父さん石について何か言ってました?」
「んー…長年の望みがもうすぐどうとか…嬉しそうに語ってたっけ」

イズミの言葉に、エルリック兄弟は顔を見合わせて、アルは切な気にエドは悔しそうにそれぞれ顔を歪めた。


「へぇ世の中には悪どい奴がいるもんだねぇ」
「俺もムカッ腹立ったからさ、東方司令部の大佐にチクっといた」
「馬鹿だねぇ。炭鉱の権利書をそのまま持ってりゃ老後も安泰なのに」

時間的にも頃合いだったし、エドの腹が鳴ったので店からメイスンも呼んで皆で昼食をとっていた。
流石肉屋、肉料理がうまい。ウルクもステーキにかぶりついていた。

「アルフォンス君食べないの?」
「食欲無いんで…」

ふと横でかわされたこのやりとりに、ウルクはきっと一瞬回りに目を光らせた。イズミ達はアルの鎧が空だと知らない。つまり、人体錬成したことを知らない。
それを理解するのには充分だった。

「しかし殺伐とした旅をしてるねぇ」
「そんな酷い出来事ばかりじゃないですよ」
「ラッシュバレーで出産に立ち会ったもんな!」
「師匠!僕達赤ん坊を取り上げるの手伝ったんですよ!」

アルとエドは興奮した様子で語り出す。ウルクも、あの場を思い出して笑みを浮かべたが、メイスンとシグが微妙な表情をしているのに気が付いた。

「ばっかおめー!俺達うろたえてただけじゃん」
「あはは!案ずるより産むが易しってあの事だよね」

ウルクは、自分は出産の場にいれなかったことを思い出し、少しだけ悔しげに下を見た。

「家族が協力して、母親も命をかけて。皆に祝福されて人間は産まれて来るんですね」

アルの言葉に、何故かウルクはずきんと痛んだ左胸を押さえた。

「そうだよ。お前達もそうやって生を受けた。自分の命に誇りを持ちなさい」

エルリック兄弟は照れ臭そうに、嬉しそうに顔を合わせる。

「そう言えば」

エドは何気なく口を開いた。

「師匠のとこは子どもはいないですけど…「エドワード君!」

メイスンが、大声をあげてエドの言葉を遮った。全員の視線がそこに集中する。

「…あーほら、あれから君達の錬金術も進歩したろう?修業の成果を見せてくれないかなぁ。ライ君の錬金術も見てみたいし」

明らかにとってつけたように、しどろもどろにメイスンはそう言った。
だがエドはそれに気付かずぱっと明るい表情を浮かべる。

「ああそれならいくらでも!リゼンブールに戻ってからも毎日研究を怠らなかったし!」
「師匠の言う通り体も鍛えてますしね!僕達かなり大質量の錬成も出来るようになったんですよ!」
「そうだ!どうせなら表でドーンとやってやろうぜ!アル!ライも!」

エドはそう言いながら、もう席を立っている。

「師匠も早く早く!」
「はいはい今行くよ」

エルリック兄弟はばたばたと外に飛び出した。
だが、ウルクはさっきのエドの言葉を聞いてイズミが浮かべた表情を見逃してはいなかった。辛そうな、悲しそうな顔を。

「…なんか、よく分かんないけど大丈夫ですか?イズミさん」
「あぁ平気平気。ライも先行っといで」

ウルクは一言だけイズミに気遣いの声をかけ、微妙な表情でエド達の後を追った。
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