雷の錬金術師

□第13話
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「師匠の身体の具合は?」
「そこそこ元気だがまぁ病弱にはかわり無いな」

シグは窓枠に肘を置き、中に声をかける。
ウルク達はドアの前で待っていた。

「おいイズミ。エルリックのチビ共が来たぞ」
「エドとアルが?」
「起きれるか?」
「大丈夫、今日は少し体調がいいから」

聞こえてくる声は明らかに女性のもので。しかも病弱らしい。
ウルクはいよいよ師匠のイメージが混乱して、首を傾げるしかなかった。

「師匠、具合悪くて寝てたんだ」
「また身体悪くなったんじゃねー?」

中からはぱたぱたと足音がする。
一体どんな人物が出てくるのだろう、と期待してウルクはドアを見た。
次の瞬間、目の前をエドが飛んでいった。

「もぎゃああああああ!」
「エドぉ!?」

アルはがたがたと震え、吹き飛ばされたエドを見る。
ウルクは目を見開いて呆然としていた。
ドアから見えるのはトイレのサンダルを穿いた足だけだ。

「お前の噂はダブリスまでよーく届いてるぞこの馬鹿弟子が」

扉を開いて、ついにエルリック兄弟の師匠が姿を現す。

「軍の狗に成り下がったって?ああ?何とか言え!」
「無理だよイズミ」

そう妻に声をかけたシグの手には、魂が抜けかけたエドがいる。

「ん?この鎧はどちら様?」

イズミは、逃げようとしていたアルにも見逃さず声をかけた。

「あっ…おっ…弟のアルフォンスです。師匠っあああ、あのっ」
「アル!随分大きくなって!」
「いやぁ師匠も変わりないよう…で?」

イズミはさっきとはうってかわって、優しげにぱっと手を伸ばす。普通にその手をとったアルだが、次の瞬間にはやはり宙を舞っていた。

「鍛え方が足りん!」

アルを、自らの何倍もあるような鎧を投げ飛ばしてしまえるイズミに、ウルクは口を開きぽかんとするばかりだ。

「立ったんだったらさっさと何とか言えエド!」
「はい!?俺までええ!?」

ずんずんと近付いてきたイズミから逃げることなど出来るわけもなく。ウルクも一瞬で投げ飛ばされていた。

「あら、私今エド投げた?さっき蹴り飛ばしたような…」
「イズミ、今の違う」
「せ、師匠…あの、今投げた方は兄さんじゃないんです、僕達と一緒に旅をしてて…」

アルの言葉に、イズミはたった今投げ飛ばしたウルクの方に歩いていった。

「あ、ごめんなさいね!すっかり間違えちゃって…」
「いいっすよ…あの、俺ライです。初めましてイズミさん」
「初めまして、そんでよろしくね」

ウルクはイズミに引っ張られて立ち上がる。
イズミに、にこっと笑いかけられ、ぎこちなく笑い返した。

「師匠具合悪かったんじゃなかったんですか〜」
「何を言う!お前達が遠路遥々来たというからこうして…」

そこまで言って、イズミは唐突に血を吹き出した。

「ちょっ!?」
「無理しちゃダメだろ。ほら薬」
「いつもすまないねぇ」
「お前それは言わない約束だろう」
「あんた…!」

カーティス夫妻は、こども組の目など気にせずに熱い抱擁をかわしている。
初めてのウルクはぽかんとしているが、エルリック兄弟はもう慣れているため遠い目をするばかりだ。

「大丈夫なのか?」
「平気だよ、師匠ずっとああなんだ」
「…何て言うか、激しく他人とは思えない」

同じくすぐに吐血をしたり、無茶苦茶強いのに病弱なウルクとしては非常に親近感を覚える。
ウルクはイズミ達を改めて見つめた。

「えーと…改めて」
「お久しぶりです」
「うん。よく来た!」

イズミは豪快に笑いながらエドの背を叩く。エドはバランスを崩し前のめりになった。
見た目は細い普通の女性なのに、戦闘能力は半端無さそうだ。確かに、エド達の言う通りの恐ろしい師匠かもしれない。と、ようやくウルクの中で今まで聞いていたエルリック兄弟の師匠のイメージとイズミが重なってきた。
そのまま、和気あいあいと皆で家の中に入っていった。
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