幻燈夜

□世界が逆になった時 No.2
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息を切らせながら帰ると、僕を待っていた父と母が居た。

「・・・どこ行ってた?」

「・・・貴方には我がどこに行こうが関係無いです」

「・・・!」

僕にそれを言われた瞬間に、義理の父の表情は一変し、
大きな音を立てながら奥の部屋へ戻っていった。

僕がまた、ふと部屋の通路を見てみると、妹が居た。
義理の妹。
羨ましい。
いつでも、義理の父と母に褒められて。

「・・・お姉ちゃん」

「・・・綯琥琉、お姉ちゃんとパパが一緒に居る時は、見ちゃだめだよ」

「なんで・・・?」

妹には、辛い思いはさせない。
羨ましくて、怨んでいるけど、辛い思いはさせない。

「・・・お姉ちゃんとパパはね、仲が悪いからだよ」

本当は妹にも知らしめてやりたい。
「お前を育ててきた父はこんなにも非情なのだ」と。
けれど、まだ10歳にもなっていない妹には辛すぎるだろう。
僕はそう思った。
だから、敢えて突き放す。

「・・・じゃあ、なくるが、パパに言ってくる」

「え・・・だめだよ、綯琥琉が辛い思いしちゃうよ」

「いいの。なくる、いいの。
だって、お姉ちゃんは、
お姉ちゃんが居ない筈だったなくるの、お姉ちゃんだもの」

何て優しい妹だろう。
この時、妹を少しだけ怨まずに信用してみようと思った。
あんな親からどうしたらこんなに優しく温かい子が生まれたのだろう。

「・・・ありがとう、でも、いいよ」

「・・・お姉ちゃん」

「寝なさい。もう遅いよ」

「うん」


紅い月の夜だった。
きっと月もいつもの神聖な姿は仮初の姿で
これが本当の姿なのかも知れない。
月が真の姿を見せたのは
やはり世界が逆になったせいだろうか。

それとも・・・
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