幻燈夜

□世界が逆になった時 No.6
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これは最初から決まっていた訳じゃない。
きっと、物語を作っていた人の筆先が、違う物語を作ってしまった。
・・・今までの絶望が全て、
そうして出来た本のページだったらいいのに。





「・・何だ、今の」

綯蔚菟は、夢を見ていた。
本当の両親が死んだあの日から一度も夢というものを見た事は無かったのだが、
何故か今日は夢を見た。
久しぶりの夢。
そして、奇怪な夢。

ヒナではない、本当に自分と瓜二つの人間が、自分の前に立ち、
ずっと自分に向かって「夢だったらいいのに」と言い放っている。
今度はヒナでは無い本当の自分だった。
ならば、それは一体どういう意味か。
そこまでは綯蔚菟には判断は出来なかった。

今日は、休日。
のんびりと階段を下りると、義理の父と母が、酷く落胆した様子で椅子に座っていた。

「・・・どうしたんです」

一言、小さく声をかけた。
すると、母から返答が返ってきた。
そして、その返答はあまりにも衝撃的なものだった。

「・・・綯琥琉が、家に居ないの」

「・・・はい?」

「・・・家出・・・かも知れないの・・・」

目に涙を溜めて言う母の口は重く閉ざされてしまった。
綯蔚菟はその言葉を聞いた瞬間に、部屋に戻り私服に着替え、
上着を着る事さえ忘れて走り出した。

「・・・綯琥琉・・・!」

何故探そうと思ったのかは本人も理解不能だった。
が、母の顔を見てから自分の中で何かが湧き上がったのは確かだった。



綯琥琉は、立っていた。
誰も居ない、寂しい廃病院の前で。








「・・・」
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