捧げます。

□意地悪な神様が決めた運命
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私はこれまで生きてきて…これほどまでに後悔した記憶は無い。どうして………“行かないで”って素直に言えなかったのか…。
それは彼と最期に過ごした日の暮れ時の会話だった。



「え………ハヤテくん…夜から任務なの?」


その日の彼はいつもと変わらず、蒼白い肌だった。


「ゴホ…はい。」

「明日本試験でしょ?無理して体調崩しちゃダメだよー。」

彼は明日、朝から大仕事だった。

「はい…お心遣い嬉しいです。」


そう言いつつ、穏やかに笑うことはなく、彼の表情は変わらなかった。


「ほんとに嬉しがってるのかねー…まぁいいや。何の任務?」

「ゴホッ…スパイの可能性のある人物の尾行みたいです。」

彼の口から“スパイ”という言葉を聞き、眉をしかめた。



「…それ、火影様直々?」


彼にそう訊いたのは、深い理由があったわけでもなく、ただ何処か引っ掛かったから。………今思うと、私は彼が帰ってこないことを、予感していたのかもしれない。



「…はい。」

少し間の空いた返事だった。彼は…その事実を私に言いたくなかったのかもしれない…。
嘘が嫌いな彼は、私に嘘をつくこともなく、私の問いに答えてくれた。


「そう…気をつけてね………。最近物騒だからさぁ…ちょっと心配…。」


そう言葉にした理由は、単純に心配で…正直言って不安だった…。


「まぁハヤテくんなら大丈夫だと思うけど。」


そう言葉にした理由は、不安になっている自分を彼に見せたくなかったから。要するに、強がっていた。

「………。帰ってきますから、心配しないでください…。」

「!」


彼は私の心を見透かしたように言った。それが何となく…悔しくて。


「…もう心配してないから、ハヤテくんはのびのびと尾行すりゃいいよ。」


私は馬鹿だ。本当は不安で不安で、不安で仕方なかったくせに。
本当は行ってほしくなかったくせに。



「ゴホッ…のびのび尾行したら…見つかってしまいます…。」


“行かないで”って素直に言っていれば、何かが変わったかもしれないのに。彼が帰ってこなくなることが、無かったかもしれないのに。
私がその言葉を彼に伝えなかった理由は………こんな耐え難い、ふざけた運命が待ち受けているなんて、知らなかったから。
満月の夜が明けた朝に、発見されたのは───鮮やかな紅に染められた彼の死体だった。要するに、彼は帰ってこなかった。
悔やんでも悔やんでも、もう元には戻せない。でも、これから先………永遠に後悔し続けるだろう…。



「じゃ、任務ほどほどにね…。」

「はい、気をつけて行ってきます。」


そう言葉にしながら、彼は微笑んでいた。


「………また、明日ね。」

その笑顔を見た私は………まだ不安だった。
結局、その日は最後まで不安は消えなかった。


「はい、また明日………。」


私の心を見透かした彼は、目を細めて優しく微笑んでいた。




意地悪な神様が決めた運命




(神は彼に………“明日”を与えてくれなかった………)



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企画『最期の恋は叶わぬ恋となり散り果てた』様へ提出しました。
参加させていただきありがとうございました。


10/12/25 七川

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