捧げます。

□あなたの見た青
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蒼い髪と青い目、俺はすぐに彼女がベルンカステルの駒だと理解した。

「初めまして、探偵 古戸ヱリカと申します。」


それが、古戸ヱリカとの出会いだった。
退屈を恐怖に思う俺は、仮の魔女でありニンゲンでもある彼女と頻繁に接触した。魔術師であり航海者でもある俺よりも遙かに、彼女の方が頭脳も狡猾さも上で、優秀だった。


「チェックメイト。………これでも元老院に所属する魔術師なんですかぁ?」


自信のあるチェスの腕も、彼女の方が上だった。彼女は蒼を思わせる冷たい笑みで、俺を嘲笑う。
その嘲笑った顔は、一膳の箸で悦楽の表情に様変わりすることを知っている。

「あああお箸っ!お箸ぃぃいいいい!!」


だから俺は、箸で彼女の首をつついて快楽の渦に突き堕とし嘲笑う、それが俺と彼女が過ごす時間であった。
その時間は俺を退屈から逃がし、とても甘美だったが永遠に続かなかった。


純白のドレスに鈍色を思わせる醜い笑顔。
その笑顔と白のミスマッチさに、一目見たときは吹き出しそうになったが、隣にいる目が死んだ新郎を見て息が止まった。
彼女は放心状態の新郎を嘲笑っている。それを見て、自分でもよくわからない感情がふつふつと沸き上がり、だんだん理由のわからない怒りが込み上げてきた。
最後には一瞬でもこの場所にいたくないという考えが支配し、会場を後にしてしまった。
俺が去った後、彼女は会場に現れた宿命の魔女との決闘に敗北し、主のベルンカステルの手により忘却の深遠へ捨てられた。
事実上彼女は死んではいないが、もう二度と会えない。忘却の海へは今の俺にはまだ、闇が深すぎて、至れない。
彼女は決闘を受ける際、ドレスを脱ぎ捨てて花嫁から探偵に戻ったことを聞き、会場を出なければよかったと、後悔した。
探偵であることに誇りに思っている彼女の部分は、狂ってはいるが嫌いではなかった。
俺は彼女に、別れの言葉を伝えることも、彼女の散り際を見ることもできなかった。


それからというもの、青を見ると無性に哀しくなる。青は、彼女の色だ。
ニンゲンから魔術師になってから、だんだん感情は乏しくなる一方で、残忍さと卑劣さは増し、最低で最悪な男に、俺はなった。
しかし彼女が現れ、消えたことによりニンゲン特有の感情がまた芽生えてしまったのだ。




「………暑。」



ふと立ち寄ったカケラの季節は、夏。じりじりと暑いから、夏は嫌いだった。
ただそれだけの理由で夏は嫌いだったが、もうひとつ理由が加わりそうだ。
空を仰ぐと、一面に広がる澄みきった青。忌々しく思った俺は、空が鈍色の雲に覆われる魔法を唱えた。


(青なんて───無くなればいい。)


千年を生きる魔術師の俺は、青が哀しい色だと知った。そのことを、彼女は知っていただろうか?
魔法を唱え終えた俺は、自分の瞳に青を映さない魔法をかけた。



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企画『エクシール』様へ提出しました。
参加させていただきありがとうございました。


11/02/15 七川

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