捧げます。

□夕焼けに染まった愛の物語は
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明日は全国大会前の最後の合同合宿。
合宿校は関東から沖縄までと、幅広く大規模な合宿だった。………全国大会までの道のりは、長かった。
4月、俺は校内ランキング戦でふたりの後輩に敗れ、レギュラー落ちをした。その頃から、何かと俺に気にかけてくれていたクラスメイトは俺の練習に付き合ってくれた。
そのクラスメイトは、データを取っても予想外な事をする少女だった。


「………行っちゃうんだ。」


橙色に染まった少女は寂しそうに呟いた。その少女………クラスメイトは、俺の恋人となった。


「寂しいと思っている確立、98%。」

彼女の声色から、その事がわかった。俺は彼女が“寂しくない”と否定、即ち嘘をつくと予想した。
しかし、彼女の返答は違っていた。


「うん………寂しい。」

その返答に、少なからず驚いてしまった。彼女が素直になるのは、本当にめずらしい。


「めずらしいね…やけに素直じゃないか。」


疑問に思った俺は、そう口にする。


「私はいつだって素直だよ。」


彼女はそう言っているが、本当は素直じゃない。誰に対しても、たとえ俺の前でも、素直にならない。
彼女が意識しているか無意識なのかは、いくらデータを取ってもわからなかった。・・・だが、今日の彼女は素直だった。
これも何故なのかはわからない。



「覚えてる…?君に“好き”って言った時も、この空だったよね?」


何を思ったのか、彼女はそう問いかけた。彼女の胸中は計り知れないが、その問いの“空”を思い出した。
その空は彼女の言う通り、同じ色の空だった。俺がレギュラーに復帰できたランキング戦の帰り道、彼女は思いつめた表情で俺に想いを伝えた。
彼女の事は、互いがただのクラスメイトだった頃から、気になっていた。レギュラー落ちをし、彼女が練習に付き合ってくれるようになってから、それが恋愛感情になるのは時間の問題だった。
俺が覚えている、彼女が素直になったのはこの時だけだった。それから彼女は、その言葉を口にしなくなった。


「あぁ…夕焼けの空だったな・・・。」


俺は、その情景を鮮明に覚えている。いつか彼女に打ち明けようとした言葉を、彼女に取られて少し悔しかったけれど、それ以上に彼女の言葉が嬉しかった。
その言葉を言い終えてから、彼女は俺に抱きついてきた。そんな彼女の頭を撫でようとしたが、彼女の紡ぐ言葉により、驚きで手が止まってしまった。


「貞治のこと、好きだよ…ずっとずっと、好き………ううん、愛してる。」


彼女は俺の腕の中で囁いた。その言葉は彼女にしては甘すぎて、思考がついていかなかったが、彼女がその言葉を口にしたのは事実だった。
また先を越されてしまったが、嬉しかった。
俺も彼女の言葉を返そうとしたけれど、彼女の言葉により遮られた。


「またね………貞治…愛してる。」



それは、純粋すぎる愛だった。



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企画『白黒』様へ白ver.として提出しました。タイトルはこちらの『花影』様からお借りしています。
参加させていただきありがとうございました。


11/01/29 七川

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