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□4.5 ホッケーマスクと困った系
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 チャリにまたがり、少し離れたスーパーへ向かう。何でも今日は、ポイント五倍セールなんだとか…主婦はその辺にうるさいからなあ。お母さんに渡されたポイントカードを思い浮かべ、ちょっと苦笑い。
「…あれ?」
 どこかで見たことのあるユニフォームの三人組が、ぞろぞろ連れ立って歩いていた。
「有利君のチームだよね…?」
「ん?」
 アンダーが青いユニフォームの男子達を横目に、隣を通りすぎようとすると、ちょっと君、と呼び止められる。げ、やけに耳のいい人が混ざってたみたいだ。
「キャプテンの知り合いだろ?」
「は? キャプテン?」
見ていたことを怒られるのかと思ったら、違うらしい。
「渋谷のことだよ。」
「…もしかして、有利君のことです…?」
へえ、キャプテンなんだ。
 すると彼らは、ああ良かったと和気藹々、頷きあった。話の見えない私に何かを押し付けてくる。
「ん? これ、…何ですか?」
「キャプテンの大事なものらしいんだけどさ。練習中は、アクセサリーは危ないから外してたんだけど、帰り際に落として行ったんだよね。」
手渡されたものを目の前に持ち上げてみると、透き通った色をした、綺麗な青い石の首飾りだ。
「…これをどうしろと?」
「あのさ、君、キャプテンの知り合いなんだろ?」
「…や、別にそういうわけじゃ…」
「え、違うの?」
違うってよ、どうすっべと彼らは困った顔をする。
「渋谷のケー番、俺達知らなくてさあ。マネージャーにかけても留守電だったし…」
「これかなり大事な物らしいから、早く渡そうと思ったんだけど…」
そこへ折り良く、私が通りかかったというわけだ。
 何て偶然! 普通なら飛びつくとこだよね、これ? チャンスだって思うとこだよね?
 …けど惜しむらくは、私は彼ら以上に有利君の個人情報を知らないわけだ。

『――――』

俺が教えてやろうか?

「ん?」
「お、どうしたの?」
「…あ、いえいえ…」
 ぷるぷると首を振る。いよいよ気を付けた方がいいかもしれない、私、幻聴まで聞こえてきた。
 有利君にはもう一度会ってみたいけど…
――ん?
 その時、ふと私は前方を見上げる。屋根の間に一本突き抜ける、銭湯の煙突がそこにあった。
「…あの、やっぱり私が預からせてもらっちゃいけない?」
 心当たりが…――今出来た。よく分かんないけど、たぶん、あれだ。
 快く首飾りを預けてくれた彼らに自転車の上から会釈して、私はサンダルを履いた足に全力を込め、猛然とダッシュをかけた。
 どうして突然閃いたのかは分からない。けど、彼はきっとあそこにいる。
 母さんのおつかいなんか頭から吹っ飛ばして、私は一路、銭湯を目指した。
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