小説
□桜花乱舞
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ミナツがこちらに来てから2日経ち、ようやくミナツは完全に回復した。
安静にしている間に自分がここに連れてこられた理由を詳しく聞き、ちゃんと理解した。
「しかし、精神にダメージ受けたのに何でこんなに回復が早いんだか・・・。」
エイレンはため息をつきながらそう言った。
「しかし、元気ですねーイリヤは・・・。」
リインも苦笑気味で前を歩く少女を見た。
実は、彼女がまだ動けない間に本来ならばもっと早期に見るはずの覚醒夢を見て、自分の名を思い出したのだ。
本来の名は『イリヤ・イツリエル・ウェンバード』。
これが・・・彼女の本来の名前・・・。
「まぁ、元気で何よりって感じだがな。」
肩をすくめながらエイレンはリインにそう言った。
「たしかに・・・。あれなら・・・これから起こる事にも耐えられそうですね・・・。」
「ああ、俺達が恐れる・・・妖怪桜の元で行われる・・・『桜花乱舞』にな・・・。」
2人はイリヤを見ながらそう話した。
桜花乱舞・・・それは100年に一度、紅の満月の夜に樹齢2500万年を越える妖怪桜という巨大樹の元で行われる祭り・・・。
その元で、3人の剣士たちが己の血を流しながら死ぬまで剣舞を舞いつづける・・・。
そして、その剣士の遺体は桜の根元に放置されそのまま桜の養分と化す・・・。
それは、神の怒りに触れないようにするため・・・。
このジスフィードが滅ぶのは神の怒りに触れたからと・・・国民や王は言う・・・。
故に、平和の代償を出しそれで神の怒りを沈めよう・・・そう考えたのだ。
その生贄はランダムに決まる・・・。
自分の生きている間に祭りがある者はみな怯えながら過ごす。
「でも・・・これで・・・本当に神は僕らを許してくださるのだろうか・・・。」
ふいに、リインが呟いた。
「リイン、その話しはここではするな。ここは街中だ。」
エイレンがリインを少し睨みながらそう言った。
実は、2人はこの国が滅び行く原因の一部を知っていた。
それは、妖怪桜に蓄積された『不浄の霊気』なのではと・・・。
それを斬り払えるのは月ノ闘技の『陽の霊気』のみだと・・・。
だが、そのようなことを言えば2人は確実に死刑・・・あるいは、国外追放だろう・・・。
故に、思うことがあっても2人の中でしか言うことが出来ない・・・。
「あ、そうでしたね・・・。あ、イリヤが・・・。」
苦笑しながら頬を掻いていたリインがイリヤのほうを見て声をあげた。
「・・・あんのバカが・・・。おい!イリヤ!!あまりふらつくなよ!!!」
呆れたようにエイレンは叫んだがイリヤは全く聞いてない様子・・・。
「しかたないですね・・・。とりあえず、あのお店に行ってみましょう。」
そう言いながらリインはエイレンを引っ張っていった。
「イリヤ、見物は終わりましたか?」
「うん。あらかた見たよ。やっぱり、城下町ってだけはあるね。お店もいっぱいあるし。」
イリヤは満足そうに笑顔でそう言った。
「そうですか。では、先に防具と剣を買っておきましょう。」
「あ、そっか・・・。ボクは戦うためにここに来たんだもんね・・・。」
イリヤは改めて自分の立場を思い出し、少し表情を曇らせた。
そして、3人は近くにあった防具と武器を扱っている小さな店に入っていった。
「イリヤ、気に入ったものは見つかりましたか?」
「別に、遠慮はしなくてもいいぞ。お前の身を守るためのものだからな。」
いつまでも迷っているイリヤに2人はそう言った。
「うーんと・・・じゃあ、これにしよ。」
そう言って、手に取ったのはかなり露出の多くそして軽そうな鎧と紺色のマントだった。
「一回試着してみたらどうです?それで似合ってたらそれにしましょう。」
リインがそう言うとイリヤはコクッと頷き試着室に入っていった。
そして、2・3分後・・・。
「いいんじゃないですか?」
「ああ、動きやすそうだしな。」
2人がそう言うとイリヤは少しだけ笑った。
イリヤの選んだ品は・・・防具は黒いショートパンツに紺色の皮やその他色々で出来た腹部が露出した鎧。
両太腿にはナイフホルダー、足はナイフ仕込みの紺のロングブーツ。
腕はアームカバーのようなものが付き、その中にもナイフが仕込んである。
そして、最後は紺色のマント。
頭には兜の代わりに青色の額当て。
「さて、次は剣だな。」
「何か、女性向の物はありますか?」
エイレンが言った後すぐにリインは店主にどんなものがあるかを聞いた。
「女性向ですか・・・。少し力があるなら男性用でも大丈夫だと思いますが・・・。」
店主がそう言うと、イリヤは目線で大丈夫だとリインに伝えた。
そして、リインは男性用でもよいと店主に言った。
「では、こちらはどうでしょう・・・。」
そう言って店主が出してきたのは三日月を連想させるような銀色の大剣だった。
「こんな大きな剣・・・女性でも扱えるんでしょうか・・・。見たところ、両手持ちみたいですし・・・。」
リインが心配そうに言うと、イリヤは剣を普通に片手で持ちそのままくるりと回転させた。
「・・・大丈夫みたいだな。しかし、両手持ちを片手でとはな・・・。」
「力あるみたいですね・・・。これなら、充分あの大剣を扱えますね・・・。」
やや苦笑気味に2人はそう言った。
「じゃあ、これでいいですか?」
リインがそう聞くとイリヤはコクリと頷いた。
「おっし、これで大体揃ったな・・・。じゃ、明日から剣の訓練始めるか。」
エイレンがそう言うとイリヤは・・・決意の篭った目で頷いた。
「うん。早く強くなって役に立ちたい。ボクの力・・・役立つものに・・・。」
そして、そう言った。
「まぁ、基礎からゆっくりやれば大丈夫ですよ。焦るとなかなか上達しませんよ。」
リインがそう言うとエイレンも同意したように頷いた。
「ああ。ちゃんときっちり教えてやるからな。だが、手加減はしないぞ?」
エイレンは悪戯っぽい笑みを浮かべながらイリヤに向けてそう言った。
「大丈夫。絶対・・・諦めたりはしないから。」
イリヤの赤い瞳は炎のように輝いていた。
まるで、彼女の意思を表すかのように・・・。