小説

□桜花乱舞
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花が散り、すっかり葉桜となった桜並木道を、



赤い瞳に男の子のように短く切られた黒髪をした少女が走っていた。



「あーん。遅刻だけはゴメンだよォ〜!!」



少女の名は『愛岬 ミナツ』。



時計を見ればもう予鈴が鳴り終わった時間。



もう遅刻決定だと半ばあきらめかけた瞬間・・・



「えっ!!ちょ、何よこれェ〜!!」



急に彼女が空に浮いたのだ。



そして、ゴウッと音がしそうなくらい強烈な風が彼女を包み彼女をどこかへと消し去ってしまった。



「ヘンな冗談はやめてェ〜〜〜〜!!!」



彼女の最後の叫びもただ空しくさっきまでいた空間に響き、やがてそれも消えた。



それが消えるころ、そこには彼女の落とした鞄だけが残った。









「リイン、ちょっとやりすぎじゃないか?」



「しょうがないよ、これしか彼女を連れ出す方法が無かったんだよ。」



翡翠のような瞳と肩まで届く金髪をした青年が隣にいる短く切られた青の髪と青の瞳をした少年にそう聞いた。



「大丈夫だよ。僕も手加減はした。魔術を使える者が手加減できなかったらどうするのさ?」



「まあ、そりゃそうだが・・・。」



「僕が何とかするよ、エイレン。これでも一応魔術使えるんだよ?」



リインと呼ばれた少年がエイレンと呼んだ青年に青いまっすぐな瞳を向けそう言った。










(ああ・・・浮遊感が何か気持ち悪い・・・)



一方ミナツはそんなことを思いながらただ流されていた。



ミナツが漂っているこの空間は『禁断の境界』。



普通の人間が迷い込んだら間違いなく発狂して死に至る場所・・・。



その空間自体が生きるものを拒絶するために起こる発狂は、誰にも治すする術はない・・・。



(これが・・・死ぬってことなのかな・・・)



そして、ついには意識を投げ出し考えることも何も出来なくなってしまった。



「おーい、リイン。これのどこが大丈夫なんだ?」



「あれー?彼女なら耐えれると思ったのになー。」



先ほどの二人がミナツの元に来た。



「だが、発狂はしてないようだ。普通じゃないことは確かだな。」



「うん。この子は違うね。やっぱり、普通の人じゃないよ。」



そう言って、リインはミナツを抱えた。



「・・・本当は・・・こんなことしたくないんだけどね・・・。」



少し悲しげな表情を浮かべリインはそう呟き、本来そこには無いはずの地面を蹴りエイレンと共にそこから消えた。












「ん・・・・。」



3人が脱出してからだいぶ経ち、ミナツはリインの腕の中で目を覚ました。



「あ、気がつきました?」



ミナツは見なれない二人に動揺したのかしばらくの間動きが止まっていた。



「あ・・・。ここは・・・。」



やっと、その一言を発したかと思うと再びミナツは気を失ってしまった。



「あ、説明する前にまた寝ちゃった。」



「そうとうダメージ受けてるな・・・。このままじゃ一生目覚めないかもな・・・。」



エイレンがそう言うと、リインは少しばつの悪そうな顔になった。



すると、2人はミナツを見て目を見開き驚いた。



「って、おい!!リイン、お前なんか術でもかけたのか?!」



「ボクは何もしてないよ・・・。」



2人が驚いたわけは、急にミナツの髪が漆黒から濃紺に変わったからだ。



そして、僅かにしか見れなかったが赤色だった瞳が青に変わるのも見えた。



「エイレン、この子は絶対に目覚めるよ。」



「ああ、これで絶対に普通の人間じゃないと言う証明が出来る。」



2人は頷きあいながら急いで自分たちの住む場所へと戻った。








そして、約一時間ほど経ちミナツはまた目を覚ました。



だが、今度はリインの腕の中ではなくリインの部屋で。



「大丈夫ですか?」



リインは驚かせないように様子を伺いながら聞いた。



「・・・ボク・・・死んだの?」



耳を済まさなければ聞こえないくらいか細い声でミナツはリインにそう聞いた。



「いいえ、あなたは生きていますよ。まだ辛いですか?」



ミナツはゆっくりと首を横に振った。



「よかった・・・。先ほどはごめんなさい。強引にこちらに連れてきてしまって・・・。」



リインは申し訳なさそうな顔をして謝った。



「・・・何か・・・事情があるの?」



ミナツがそう聞くと、リインの表情がどんどん苦いものをかんでいるようなものに変わっていった。



「はい・・・。実は、今僕らの住むこの『ジスフィード王国』は絶滅の危機を迎えようとしてるのです。」



ミナツは何を言うでもなくただ黙ってリインの言葉に耳を傾けた。



「それを何とかするためには・・・『月ノ闘技(カゲツノトウギ)』という剣の力が欲しいんです。だから・・・」



そう言ったあと、リインは言葉を詰まらせてしまいその海のような青い瞳には涙が浮かんでいた。



「つまり・・・それを探すにはお前さんの協力がいるんさ。」



いつの間にか部屋に入ってきていたエイレンがリインの代わりにそう言った。



「協力・・・・して・・・・くれますか・・・・?」



絞り出すかのようにリインがそう言うと・・・ミナツは首を立てに振った。



「ボクに・・・どんな力があるのか分からないけど・・・。出来ることなら・・・。」



そう言うと、ミナツは僅かに微笑んだ。



「・・・そういえば、お前さんの名前聞いてなかったな。」



エイレンが思い出したかのようにミナツにそう聞いた。



「ボクは・・・・・。・・・・ボクの名前・・・・思い出せない・・・・。」



ミナツが掠れた声で困ったように答えた。



「・・・やっぱり、強制的に・・・人間界に転生させられた人・・・みたいだね・・・。」



リインが途切れ途切れにそう言うと、エイレンも同じ事思っていたのか頷いた。



「大丈夫だ。記憶ってのは一回失ってもまた戻る。あ、オレはエイレン。エイレン・スランピン・バートランド。」



「ボクはリイン・カナリス・シュペッツ。もっと男らしい名前がよかったな・・・。」



2人は笑いながらミナツにそう言った。



「とりあえず、回復したら一緒に町に行きませんか?その格好で生活していくのは・・・。」



現在のミナツの格好は半袖のセーラー服。



こちらの世界では非常に珍しいもの。



と、いうかこちらの世界にセーラー服なんてありません。



「そうだな・・・。住む人間がもう一人増えるんだからな・・・。細々した物も買い足しにいくか。」



エイレンが顎に手を当てながらそう言った。



「ま、とりあえずあなたは安静にして回復することだけを考えればいいんですよ。」



そのあと、リインがミナツの頭にポンと手を置いてそう笑いながら言った。



その光景を見ながら、ミナツは少しだけはにかんだように笑った。
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