☆五年A

□●気づいてしまえば単純で
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「・・・・・・・っ。」





熱い







どこもかしこも













『 気づいてしまえば単純で 』















「はぁ・・・・はぁっ・・・・・。」

全速力で走る。

とにかく走った。

気がついたら誰もいない風呂場にいた。

「水・・・っ。」

まだ冷たいお風呂の水の中に服のまま入る。

「・・・・・・・・。」

頭に水をかける。

冷たいはずなのに・・・・・・・・

でも・・・・

「熱い・・・・・。」

全身が熱い。

「・・・・・・・・・。」

今・・・・自分はどんな顔をしているのだろうか。





「・・・・・・・出よ・・・。」





ずぶ濡れになったまま、自室へと戻る。

廊下がぬれるとあとが面倒なので、地面に下りて部屋を目指した。



「・・・・。」





ひょんなことだった。

あれは事故だ。



『・・・・大丈夫か?』



あいつの声が耳に残っている。



「・・・・・三郎・・・・。」















あれは俺が教室から出るときだった。

ほんの一瞬考え事をしたとき・・・・・・・

どこからともなく鉛の玉がすごい速度で丁度俺のところへ落ちてきて

俺は迂闊にも反応が遅れた。

そのとき、後ろから誰かにひっぱられなんとか玉を逃れることができた。

『・・・大丈夫か?』

聞き覚えのある声。

腰にある腕。

「さ・・・・ぶろ?」

ゆっくりと相手の顔をみる。

「どうしたんだ、いつもならこんなのよけるくせに。」

「あ・・・・・・・。」

至近距離にある顔。

雷蔵の顔だけど別人。

「ちょっと・・・・考え事・・・してて・・・・。」

「ふーん?でも気をつけろよな、今の七松先輩が蹴ったボールだったし。」

「・・・・・それは・・・・・死ぬところだったかも。」

「だろ?」

「ごめん、ありがと。」

「ん。」

「・・・・・・。」

「どうした?」

「な・・・・んでもない。」

「?」

三郎の腕から兵助はゆっくり離れる。

「・・・・じゃあ俺、八んとこいくし・・・。」

「・・・・ふーん。」

「なんだよ。」

「別に。じゃあさ、用事終わったら雷蔵の部屋こいよ。うまい菓子があるんだ。」

「わかった。」

「じゃあ、私は雷蔵んとこいるから。」

「ああ・・・。」

そういうと三郎はゆっくり歩いていった。

兵助ものろのろと歩きだす。





しかし、曲がり角を曲がったところで急にあの声を思い出した。



『・・・大丈夫か?』

耳元で囁かれた声。

いつもより優しくきこえた声。

間近にあった顔。





「・・・・・・・っ。」





急にカッと全身が熱くなった。

その熱でどうにかなりそうで・・・・

だから走った。

一気に頭が冷やせる場所へ。

誰にも見られず頭を冷やせそうな場所へ。













冷静になって部屋で濡れた服を着替える。

三郎に竹谷に会うなどと言ったが、本当はそんな予定などない。

そうでもいわないと・・・・・

なぜかずっと三郎と2人になりそうだったから。

2人きりが珍しいわけじゃないけど・・・・でも、あの時はどこか居心地が悪くて・・・。

いつもの自分達じゃいられない気がして・・・・。



「・・・・・。」



正直このあと雷蔵たちの部屋にいくのも気が引ける。

今頃三郎は雷蔵と仲良く話に花を咲かせていることだろう。

そう思うとなんだかもやもやして・・・・。

すごく嫌な気持ちになる。

自分でもよくわからない。



「・・・・とりあえず着替えて八さがさなきゃ・・・。」



兵助は手早く着替えるとすぐ竹谷を探しに向かった。

竹谷がいないと自分は三郎に嘘をついたことになる。









「生物委員会・・・・は今日はないし・・・・、まだ教室か?」

そう言いながら捜すものの竹谷は一向に見当たらない。

思い思いのところをあたるが・・・いない。

これだけ見つからないと逆におかしい。

「・・・・・うーん・・・・。」







「久々知先輩?」







聞きおぼえのある声に振り返ると同じ委員会の後輩、伊助がいた。

「いや、竹谷をさがしてるんだけど・・・・みつからなくて。」

「竹谷先輩ならさっき馬小屋あたりにいらっしゃいましたよ?」

「ほんとか!?」

「はい。」

「助かった!ありがとな、伊助!」

そういうと兵助はすばやくのその場を去っていった。

「なんだったんだろ?」













兵助は走った。

そして馬小屋に近づくと人影がみえた。

あのボサボサ頭は竹谷だ!



「おーい!は・・・・・・ち・・・・・?」



竹谷に近づき名を呼ぶ。

竹谷も兵助の声に気づき振り返る・・・・・・が。



「さ・・・・・三郎?」

「あ、ばれた。」

「な、なんで・・・・。」

「気晴らし?」

「紛らわしいことすんなよ!!」

「兵助こそ。」

「は?」

「兵助こそ、そんなに八に会いたいのか。」

「だ、だって俺・・・・。」

「八と約束?」

「お、おう。」

「嘘付け。」

「なっ!?」

「八は朝からお使いでいないよ。」

「!!」

「嘘ついてまで私を避けるのか。」

「避けてなんか・・・・。」

「じゃあ・・・・」

三郎が兵助に歩み寄る。

「さ・・・・三郎・・・。」

「さっきからこの妙な距離感なに?昨日までこんなことなかった。」

「そ、そうか?」

「兵助・・・。」

「っ・・・。」

三郎が近づけば兵助は離れる。その繰り返し。

一瞬三郎と目が合う。

「さぶろ・・・・・?」

今にも泣いてしまいそうな悲しげな表情に見えた。

「せっかく保ってきた距離なのに・・・・これ以上離されたくないのに・・・・。」

「・・・?」

わからない。

でも悲しそうな三郎に兵助は一歩近づく。

手を伸ばしてみれば届きそうにみえても・・・実際三郎には届かない。

三郎もまた、兵助が近づきすぎると距離をとる。

その事実に、すごく辛いなにかが体を・・・思考を狂わせる。

「三郎・・・・・。」

兵助が近づく。

「逃げるな。」

おかしいな、最初に逃げたのは俺のほうだったのに・・・・。

いつのまにかその言葉を口にしていた。

三郎は言うがままにその場を動こうとしない。

「兵助・・・・。」

「動くなよ・・・・。」

「動かないよ。」

ゆっくり三郎に近づく兵助。

いつもよりも近い距離で三郎をみる。

さっきまで目も合わせられなかったが、今では三郎をしっかり見つめる。

「・・・・・。」

「三郎・・・・名前、よんで。」

「?・・・・・・・兵助?」



至近距離で、目が合って、名前を呼ばれて・・・・




全身がさっきのようにカッとなるのがわかった。

「ああ・・・・・そうか・・・・。」

「兵助?」

「・・・・っ。」

名前を呼ばれるだけでやばいくらい動機が激しくなる。

この男はこんな声だっただろうか?

あの男はこんなにも綺麗だっただろうか?





「俺・・・・。」





「お前が・・・好きみたいだ・・・・。」





気がつけば口が勝手に言葉を紡いでいた。









「え・・・・・?」

「え・・・・・。」









兵助自身も驚いたが、それ以上に三郎は固まったまま動かない。

「うわ・・・・・俺・・・・何を・・・・!」

「・・・・・。」

「ご、ごめ・・・・・今のちが・・・っ・・・・いや、違うこともなくて・・・・!」

「・・・・・。」

「あ、やっぱなし!!今の・・・・・っ。」

「だめ。」

「え?」

三郎の声と同時に兵助は三郎の腕に中にいた。

「なし、なんて許さない。」

「さ、三郎・・・・。」

「こんな嬉しいことを・・・・なしになんてできない。」

「・・・・泣いてるのか?」

「泣いてない。・・・けど、泣いてもおかしくないくらいに幸せだ。」

「・・・・それって・・・・・。」

「そういうことだ。」

「・・・・・。」

「やっと兵助が私のことを好きになってくれた・・・・。」

「・・・三郎・・・・。」

「兵助、もう一度好きっていって。」

「・・・・・・・俺、三郎のはまだ聞いてないんだけど。」

「全身で伝えてるけど?」

「アホか!・・・・・三郎が言ってくれたらもう一度いうよ。」

「ほんとに?・・・・・・・好きだ、兵助。いつもお前が呼ぶのは八ばっかりで

正直嫉妬してた。」

「そうか?そういうお前も雷蔵ばっかりだ。」

「でも愛してるのは兵助だけだから。」

「俺も好きだよ・・・。」

兵助がそういうと三郎は嬉しそうに微笑んだ。

「・・・・・・。」

「ん?」

「なんでもない・・・・・・ところで・・・。」

「なに?」

「そろそろ離して・・・・・正直、恥ずかしいし・・・・そろそろ雷蔵のとこいこ?」

「・・・・名残惜しいけど、雷蔵を待たせるのはよくないな。」

「うん。」

「じゃ、いこうか。」

三郎が兵助からはなれる。

「・・・・雷蔵に会う前にそのニヤニヤした顔なおせよ?」

「そういう兵助も顔真っ赤。」

「・・・・・・どうしよ。」

「ふむ。そろそろ八もかえってくるし、帰りでもまつ?」

「お、俺、八の帰り待ってから雷蔵んとこいく!」

「・・・・じゃ、お先に雷蔵のとこいってるよ。」

「・・・・。」

「私といたら熱さめないんじゃないか?」

「う・・・。」

「心配しなくても私は兵助一筋だから!」

「聞いてない!」

「はは、じゃ、そろそろいくわ。またな。」

「お、おう。」

そういうと三郎は幸せそうに笑いながら雷蔵の部屋へ歩いていった。

兵助は顔を真っ赤にさせながら門へと歩く。

門の外で熱を冷まそうとがんばるが、冷めるどころか、さきほどの光景を

思い出してさらに熱くなってしまった。

竹谷が帰ることにはなんとか治まったものの、結局は雷蔵に部屋で会ったとき

また思い出し、真っ赤になる兵助なのであった。

ちなみに三郎は始終ニコニコしていて気持ち悪いと雷蔵に散々いわれていた。









「・・・な、あの2人なんかあった?」

「あった。」

「・・・・三郎気持ち悪ぃな。」

「気持ち悪い。」

「あの・・・雷蔵さん?」

「なに?」

「なんか怒ってんの?」

「怒ってないよ。」

「あ、そうですか。」

「ただ・・・・。」

「?」

「三郎がイラつくぐらいニコニコしてるのが気持ち悪い。」

「・・・・・はは。」

「でも兵助がかわいいから許す!」

「・・・・・・・・・・俺、雷蔵のことよくわからなくなったよ。」



















― おわり ―


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