☆長A

□○はちみつが苦いC
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ひどく嬉しそうな顔をした竹谷をみて僕はなにも感じなかった。



・・・・いや、逆にひどく興奮したのかもしれない。



あまりにも衝撃で僕はつい笑うのをやめてしまった。



無表情なんて久しくしていなかった。
















『 はちみつが苦いC 』











「友達、ね。」

僕が無表情のまま呟く。

「いるよ?」

にっこり笑ってそういえば今度は竹谷が無表情になった。

「悪いけど、俺は雷蔵のこと友達だなんておもってないぞ。」

「大丈夫だよ、僕も一度たりともおもったことなんてないからさ。」

そういうと竹谷の顔がすこし引きつる。

自分のしかけた問いかけに自分で傷ついているの?

すこしは友達と思ってくれていたのかな?

それとも僕が君のこと友達だって思ってたって言うとおもったのかな?

だとしたら君はまだまだ僕の心を見抜けはしないだろう。

「話は終わり?」

「・・・・ああ。」

「ふーん。じゃあ僕は先生のとこいくからね。」

「おう。」

道をあけてくれる竹谷。

その竹谷の横を通り過ぎる瞬間、彼は呟いた。

「・・・友達って、三郎?」

「・・・・・・・・・ふふふ・・・ははっ。」

思わず笑ってしまった。

「・・・・・。」

「三郎ねぇ・・・?」

「違うのか?」

「君の目からみてそう見えたんだろう?だったらそうだよ。」

「どういう意味?」

「・・・・・・・さぁね。」

僕がそういうと竹谷はまた黙り込んだ。

普段はうるさいくせに。

君だって僕とそう変わらないんじゃないの?

君もなんだかんだで手の内はみせない。

後輩に優しい、頼りになる竹谷先輩。

でも本当は欲が強くて、残酷で平気で嘘をつく。

・・・・ちがう、本当はそうなのではなく、それも一部なんだよね。

表と裏なんかじゃない。

そう、ひとつのもの。

表か裏かはただの客観的なもので竹谷自身故意にやっているものじゃない。

たまたまいい面ばかり人がみているだけ。

たまたまの積み重ねが勝手に一人歩きしてみんなの印象になっていく。

世の中そんなものなのだ。

「ねぇ、はっちゃん。」

「・・・?」

「僕は君が思っている以上に君について詳しいよ。」

「はぁ?」

「そしてはっちゃんはきっと僕よりも僕に詳しい。」

「どういう・・・。」

「さぁね。」

「・・・その言い方、まるで三郎みたいだな。」

「・・・・・・・。」

三郎、ね。

「はっちゃん、ひとついいかな?」

「・・・・なに。」

「三郎は兵助こと大好きなんだよ。」

「なにいって・・・・。」

「ほんと。」

竹谷は目を丸くして僕をみる。

そりゃそうだろ。

どうみたって三郎は兵助が嫌いだ。

表面上はそうではないけど近くにいる僕らにはすぐわかった。

「どうみたってあれは・・・」

「そうだね。」

そうなんだけどね?

でも三郎は・・・・・

「でも僕にはわかるよ。・・・・あいつは兵助が好きだよ。」

「雷蔵・・・?」

「・・・・ま、僕の勘違いかもしれないけど。」

そういって雷蔵は竹谷に微笑み、横を通り過ぎた。

残された竹谷は雷蔵を見送ると眉間に皺をよせながら自室へと歩き出した。





















雷蔵は竹谷と別れ、先生のもとへ向かう途中、庭に兵助をみつけた。

木陰の下でなにかの本をよんでいる。

勉強熱心な彼のことだからきっとそういう本だろう。

「へーすけ。」

上からよぶと兵助はすぐにこっちを向いてくれた。

「雷蔵、どうした。」

「どーもしないよ、兵助がいたからさ。」

「そっか。」

「うん。」

兵助は読みかけの本を閉じて雷蔵のもとまで歩いてきた。

「?・・・兵助?」

「うーん、なんかいい事あった?」

「ん?とくにないよ?」

「そ?なんかうきうきしてそうにみえるから。」

そう微笑みながらいう兵助に雷蔵は困ったように笑う。

「楽しそうにみえる?」

「うん。ニヤニヤしてる。」

「ニヤニヤって・・・うーん、なんだろこれからどうなっていくんだろうなって思うことがあってさ。

いい事なのかそうでないのか・・・・。」

「へー?」

首をかしげる兵助の頭を窓越しになでる。

「わ、なに?」

「兵助は僕の空気だよ。」

「?」

「僕さ、兵助のこと大好きだよ。」

「俺も。」

「だって兵助にはどんな僕でもかなわないんだもん。」

「なにいってんの、雷蔵は一人じゃん。」

「うん、そうだね。」

「どんなってどんなだよ。目にうつったすべてが雷蔵なんだからどんなもくそもないじゃないか。

分別できるほうがすげぇよ。」

兵助はそういうけれど実際兵助のいうことはけっこう難しくて普通は分別するほうが楽なのに・・・。

だから僕は兵助が好きだ。

打算もなにもかも君の前ではかなわない。

君の目は僕をまっすぐとらえて、僕の中の悪を悪といわない

・・・・違う・・・そういうふうに見ようとすらしていない。

僕がいくら悪なのだといっても君はそれを認めない。

悪も含み僕だといって僕をみつめる。

善ばかりの僕をみせていてもどこかで違う僕をみつめている。

僕自身さえもわからない僕をその目はとらえていて・・・・

僕もそれをいやだとはおもわない。

むしろずっととらわれていたいのだ。

心地よくて、嬉しくて・・・・

君の瞳に心躍る。

僕は本気で君のことが好きだよ。

友達として、恋焦がれる相手として・・・・

「雷蔵?ぼーっとしてるけど大丈夫か?疲れてる?」

「ごめんごめんそうじゃないよ、大丈夫。つかれてるのは兵助でしょ。

なんで寝ないで本読んでるのかな?はっちゃんあたりに寝ろっていわれなかった?」

僕がそういうと兵助の頬が引きつった。

「う・・・。」

「寝なさい。」

「だってさー・・・・。」

「目の下の隈が消えるまでおきちゃだめ。」

「えー!」

「夕飯におこしてあげるからゆっくり休むこと!」

「・・・うー・・・。」

「それまでこの本は没収!」

「あ!」

兵助の手から本を取り上げる。

「ふふ、返して欲しかったら今すぐ自室にいくこと。」

「・・・・・・・雷蔵、いじわるだ・・・。」

「意地悪じゃないでしょ、心配してるんだよ。」

「・・・・心配・・・・ですか。」

「うん、心配ですね。」

「・・・・わかったよ。寝るよ。」

「うん、いいこいいこ。」

兵助の頭を軽くなでる。

兵助も恥ずかしそうだが素直に受け入れてくれている。

優しい空気がながれる。

普段甘えない兵助のこういう一面をみるのは雷蔵にとって至福のひと時でもある。

「あ、でもはっちゃんには内緒な!」

「はいはい。」

雷蔵はそういうと兵助から手を離した。

「じゃ、僕いくね。先生によばれてるんだ。」

「え、はやくいえよ・・・俺と話してる場合じゃないだろ。」

「いーのいーの。」

「じゃ、俺も素直に自室にもどるとしますか。」

「おやすみ、兵助。」

「おやすみー。夕飯におこしてくれるよな?」

「もちろん。約束。」

「おう。」

そういうとお互い目的の場所へと向かっていった。

雷蔵は一度振り返り兵助の後姿を見つめる。







さきほど竹谷に言った一言を思い出す。





『三郎は兵助のこと好きだよ。』





「・・・・・ねぇ、兵助は・・・・・?」





そう呟いても自分以外は聞いていない。

三郎のことは本当だよ。

兵助のこと好きな僕がそう感じてる。

三郎自身が感じていないものを他人の僕が感じてる。

三郎は君がまぶしすぎてしかたないだけなんだよ。

愛と憎悪もわからない馬鹿で、興味ないフリして意識しまくっている。

僕としてはそのまま気づかずにいてほしいものだけど・・・。





そういえばさきほど竹谷に三郎みたいなこというな、みたいなこと言われたな・・・。

はっちゃん、それって全然違うんだよ。

僕が三郎のまねしてるんじゃないよ。

当たり前だけど三郎が僕のまねしてるんだ。

三郎自身も僕の真似をするうちに僕にとらわれ、依存してひねくれてしまった。

僕はそれを不快に感じるわけではないけれど、もう何年もそういう状態なものだから

一体なにが僕でなにが三郎だったのかさえ曖昧なのだ。

僕は僕なのだけれども僕は僕の視点でしか僕のことを知らないから

三郎が僕を真似ることで別の僕がそこに存在している感覚になることがある。

だからかな、三郎のことをちゃんとみている人はほとんどいないんだ。

彼自身隠してる。

だから彼は兵助がきらいだ。

自分の努力すべてを剥ごうとするあの目が。

まっすぐ生きるその姿勢が。

日に日に輝きを増す兵助が・・・羨ましくてしかたない。

「・・・いつしか恋になっていた、か。」

無自覚な恋。

僕とは密かにライバル。

まぁ、気づいてないからライバルにもなりゃしないけど。







「・・・・僕は三郎も兵助も好きだよ。」







変わりはじめていくまわり。

だから僕も三郎も兵助ももっともっとかわるために・・・・

いつまでもじれったい関係なんかでいいわけがない

僕らのうすっぺらい友情がどう転ぶのか・・・・

僕はみてみたいんだ。

壊れてもいい、どうなってもかまわない。

















だから僕は・・・・・・・
























― つづく ―















― こめんと ―



ちょいと謎な雷蔵視点です。

雷蔵は誰が嫌いとかは今のところないというか・・・・今後でてくるかもね。

ある意味誰も信用してないというか・・・。

兵助のことは好き。

三郎は・・・・好きとかそういうことじゃないけど・・・ちょっと色々あるというか。

竹谷のことは別に嫌いではないけど好きでもない。むしろ興味ない。

でも今回のことでちょっと興味でたという感じですかね。

雷蔵の今後の動き次第でいろんなことがかわっていくと思います。

波紋をね・・・。

まだまだ続きます。どうぞよろしく。

てかこの連載おもしろいのかな?(笑)シリアスだもん。



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