club vongole
□club vongole 13
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club vongoleの更衣室。
あと30分少しで、新人にも関わらず獄寺君は偵察に行かなくてはならない。
そんな憐れとしか言い様がない獄寺君に、俺が出来ることは一つだけ。
無意味かもしれないが励ましの言葉を掛けて笑顔で見送りたい。
しかし、更衣室に漂うピリピリとした嫌な空気のせいでそれは叶わないようだ。
「今回ばかりは納得できねぇな」
「それはこっちの台詞です」
目の前でいつになく真剣な眼差しを送る山本と、珍しく笑みが見られない骸。
殺伐とした空気の現況はこの二人のせいなのだけれど、どうも宥める気にはなれなかった。
というよりもむしろ関わりたくない。
言い争っている原因が原因なだけに。
「獄寺は脚キレイだから絶対ミニスカだろ」
「短くすればいいってものではありません。風に靡くスカートとか最高じゃないですか」
「テメェらいい加減にしやがれ…」
力説してはどこか自慢気にタイトなミニスカートを手にする山本。
一方、制服の王道であるセーラー服を手にしてどこか熱っぽい表情を浮かべる骸。
そんな二人の様子に拳を震わせている獄寺君。
そう、目の前で言い争っている原因は獄寺君に何の女装をさせるかというものだった。
club vongole 13
ざわめく心
「こら、遊びに行くわけじゃないんだぜ」
正直下らないとしか言い様が無い口論の間にディーノさんは割り入って、二人を宥める。
マネージャーからの制止も入り、どんぐりの背比べのようなやり取りも終焉を迎えるだろうと呆れからか短い溜め息を吐くと。
「隼人にはやっぱりこれだな」
「テメェも人のこと言えねぇだろ!」
ディーノさんは悪戯げに笑いながら、声を張り上げる獄寺君を宥めた。
フリルのたっぷりとついたメイド服を片手に。
そんな可愛らしい笑みを浮かべるディーノさんだけれど、発言と手にしている服にひきつく頬は抑え切れない。
偵察に行くことになった上に、この現状を目の当たりにしている獄寺君にいよいよ同情してしまう。
すると、未だにミニスカートを手にしている山本が一つ笑みを向けてきて。
「ツナは獄寺に何着て欲しいんだ?」
「俺はどれでもいいかな…あはは、」
ああ、もう趣旨が変わっている。
確か俺達は獄寺君を見送る為に普段より早く寮を出てきたというのに、これじゃあ獄寺君のコスプレパーティーだ。
そんな俺も他人のことは言えないかもしれない。
小花柄のワンピースが似合うだろうな、なんてことを思ってしまっているのだから。
まぁこの三人のように口には出さないけれども。
目の前で獄寺君に着せる服のことでまだ水掛け論をしている三人に、今まで沈黙を守っていた雲雀さんは至極どうでもいいといったように欠伸を洩らした。
「何でもいいから早くしてよ」
「そういう恭弥はどれがいいんだよ」
雲雀さんの一言によって一瞬、更衣室に沈黙が訪れたけれどそれは直ぐにディーノさんによって踏み砕かれた。
雲雀さんが答えるわけないじゃん!
心の中でそう叫ばざるを得ない。
こんな下らない事に雲雀さんが参加するわけないじゃないか。
これ以上、長引かせて雲雀さんの機嫌が悪くなるのは真っ平御免被りたい。
しかし、そんな俺の予想は全くという程当たらず。
「…これかな」
ズラリと並ぶ多種多様な服を一瞥しては指をさす雲雀さん。
雲雀さんが指を向けた先に視線を送ると、そこには純白のワンピースが吊るされていた。
まさか雲雀さんが答えるなんて思っていなかった俺は驚愕せざるを得ない。
清楚系が好きなんだな、と的外れなことをぼんやりと思いながらも自我を保つことに懸命する。
だって雲雀さんが純白のワンピースを選んだことによって、更に選択肢は増えてしまったのだから。
このままじゃ埒が明かないと思った俺は、ただ呆然と立ち竦む獄寺君に向かって口を開いた。
「獄寺君、どうする…?」
こうなったら当人に選ばせるしかないと投げ掛けた質問。
獄寺君は苛立ちを抑えながらも暫しの沈黙の後、女装することを覚悟に決めたのか一つの服を手にした。
雲雀さんが選んだ純白のワンピースを。
毛嫌いしている雲雀さんの選抜した服を選択したことは、正直意外だった。
だけどタイトなミニスカートから始まりセーラー服、メイド服ときたら獄寺君の判断は懸命なのだろう。