Another

□you are our angel
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ボンゴレアジト、中枢部。
只今、沢田は優雅に山本が淹れた紅茶をたしなんでいた。
これから起こる事に口元を弛ませながら。
そんな楽しそうな沢田に山本は、分かり切っている質問を敢えて下す。
確認の意味を兼ねて。

「なぁ、雲雀は?」

「雲雀さんなら出張だよ。多分、今夜中には帰って来れないんじゃないかな」

ついでにお兄さんとランボも不在だよ、と口角を引きながら飄々と言って退ける。
そんな沢田を見て、ディーノも楽しそうに口角を上げた。
教え子にとっては酷なことかもしれないけれど、これは好都合。
今や頼れるボンゴレ十代目ボスに感心さえも抱く。

「さすがツナ。謀ったな?」

「ボンゴレもなかなかやりますね」

「そういうディーノさんと骸だって獄寺君が目当てで来たんでしょ?」

ニコリ、と一つ笑みを浮かべるディーノと骸のそれは肯定の意味を示すもので。
理解を把握している山本もそれは同じものだった。
もちろん、首謀者である沢田は当然のこと。

そう、ここボンゴレアジトに集まる四人の目的は一つであり、同じであった。
それは、みな獄寺隼人をものにしたいという目的。

いつもは最凶な雲の守護者という邪魔者の存在によって付け入る隙などない。
だけど、今夜はその付け入れる隙がある。

明日は獄寺隼人の誕生日。
邪魔者は出張で居ない。

例え、彼が人のものであろうと。
千載一遇のこのチャンスを逃す程、お人好しな人間などここには居ない。

少しえげつないかもしれないが、鬼の居ぬ間に獄寺隼人をものにしようということだ。

「タイムリミットは0時ジャスト。その間に獄寺君をものに出来るかどうか」

「平等に時間配分は30分交代な。それをループするってことで」

「さぁ、一番手は誰にする?」

「俺は最後でも構わないよ」

「余裕ですね、後で後悔するというのに」

刺々と張り詰める空気が広がる。
みな目的は同じであるが、ライバルにも変わりない。

ここからは皆、敵同士だ。
獄寺隼人をものに出来るのは、一人しかいないのだから。

一番手はくじ引きの結果、山本ということに収まった。
平等なくじで決まったわけだから、負に落ちないとしても誰も文句は言わない。


「準備はいい?」

沢田の投げ掛けを受け、四人の男達は首を縦に振った。
さぁ、戦の始まりだ。

9月8日、22:00
残り時間はジャスト二時間。
獄寺隼人を巡り、
四人の男達が、いま果敢に闘志を燃やす。

こうして、男達の戦いは幕を開けた。
もちろん、そんな事態が起こっているなんて知る由もない自室で愛猫に餌をあげている当事者を除いて。



「さて、獄寺をものにして来るとすっかな」

ツナ達からどこか刺すような視線を受けながら、俺は早速獄寺が居るであろう部屋へと向かった。
ノックも無しに勝手に部屋に入ったら獄寺はまた怒るんだろうな、と易々想像のできる光景を脳裏に浮かべながら、それでもノックをせずに扉を開く。

「ごーくでらっ」

「テメェ、ノックぐらいしやがれ」

案の定、獄寺は勝手に部屋に入ったからか眉をひそめていて。
ちょうど愛猫である瓜に餌をあげている最中だ。

予想通りの獄寺の表情は、十年前から変わらない。
それが嬉しくて、自然と口元が緩んでいく。

「まぁそう言うなって。ほら、土産」

そんな相も変わらず不機嫌そうな獄寺に、差し出したのは土産であるビール。
シャンパンとかワインとか洋酒が良かったと言わんばかりに満足した表情を見せなかったけれど、それでも土産を持ってきたことに悪い気はしないのか、応えるように二人分のグラスを持ってきてくれた。

「乾杯」と一方的にグラスを合わせてビールを喉で飲んでいく。
やはり、まだ残暑なだけあって喉を喜ばせる。

獄寺もそう思っているのか、はたまた喉が渇いていたのかみるみる内にビールは減っていった。
その間、繰り広げていたのは何気もない会話。
俺にとっては何気のない会話を獄寺と繰り広げていること自体、とてつもない大進化だ。

獄寺の話に耳を傾けながら、部屋に掲げられているシンプルな時計に目を配ると早くも既に20分も経過していた。

─さて、ここからが勝負だ。
男、山本武、獄寺隼人を落としてみせる!




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