glitter dark grey

□glitter dark grey 15
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青空が広がる晴れ晴れとした昼下がり。
点々と浮かぶ白い雲があることから快晴とは言い難いけれど、それでも旅行日和と言えるだろう。

そんな天気に恵まれた中、俺達はいま正に旅行へ出発する為に列車の中に居た。
四人のボックス席に腰を掛ける俺達は端からしたらきっと仲睦まじい光景に見えるのかもしれない。

だけど、まだ旅行が始まったばかりだというのに俺は嫌な予感をひしひしと感じていた。


「十代目、どうぞ」

不安を抱き移り変わる窓の外を眺めていると、突然差し出された冷たいお茶。
獄寺君の声と差し出されたお茶に意識を向け、ありがとうと礼の言葉を告げてはお茶を受け取った。

笑顔を向けてくれる獄寺君はいつもと変わらないし、早くも眠りに耽っている雲雀さんに限っては存在自体が恐怖の象徴で不安を募らせるものだけれども。
それより気に掛かったのは、俺の正面にいる人物だった。

そう、嫌な予感を募らせる元凶。

窓の外を、ただぼんやりと眺めている山本。
普段とは様子の違う山本に気を掛けてしまう。

「山本も飲む?」

「ああ、サンキュ」

「十代目、こいつは自分でやらせとけばいいんスよ」

「あはは…」

山本にお茶を渡すと山本も獄寺君も、いつも通りと同じ反応を返してくれる。
そう、いつも通りのやり取り、いつも通りの山本。
だけど超直感か否や、それは僅かによそよそしさを感じていた。

…いや、超直感が無くてもあんな酷な真実を聞いてしまえば分かるものなのだけれども。








glitter dark grey 15 

嫉妬心と独占欲








それはちょうど一週間前のこと。
結局、打ち切りになってしまった山本の想い人を探すという無理難題を決めた日のこと。

俺は補習に行く前に、山本がシルバーピアスを手にしていた現場を目撃してしまった。
聞いてみれば何でもその想い人の落とし物らしく、もしもう一度会ったら返してあげたいという心暖まる山本の気持ち。

それがなぜか補習が終わって二人と合流したら山本は探すのはやめよう、と言い出してきた。

もちろん疑問符を打った俺と獄寺君だけれど、獄寺君の耳に嵌まっていたシルバーピアスにより理解へと至る。
想い人が落としていった筈のピアスが、獄寺君の耳に嵌まっているという状況に。

そう、つまりは想い人は獄寺君だったという酷過ぎる現状に。

どういった流れで、獄寺君に惚れてしまったかは分からない。
だって一目惚れだと山本は言っていたわけだから、その相手が獄寺君だったなんておかしな話だ。
だけど、それを追究する勇気など俺にはない故に素直に山本の言った通りに想い人を探すという捜索に終止符を打った。

もちろん獄寺君は何も知らないし、折角該当した人間をどういったルートでかは分からないがピックアップしてくれた為に納得した様子ではなかったけれど、俺が賛成したことからか渋々山本の意見を飲んだわけで。

そんなことがあったから、温泉旅行が楽しくなるかは凄く微妙なところだった。

だって、端からしたらいわゆる三角関係。
況してやそのトライアングルの中に恐怖の象徴である雲雀さんが加わっているとなれば、平和に終わるわけがない。
山本が獄寺君に宿している気持ちを知ってしまったら、どうなるのだろうと考えただけでも寒気を感じる。


獄寺君を除いて微妙な空気が既に流れている列車の中、俺は深い溜め息を吐きながらお茶で喉を潤していく。
隣で観光ブックに目を通して俺に見せてくる獄寺君は、何とも無垢なことか。

元はと言えば全て獄寺君が元凶だというのに、何も知らない天使のような小悪魔を横目に俺は切に願った。


どうか、無事に温泉旅行が終わりますように、と。




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