club vongole

□club vongole 17
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結局、そんな雲雀が気になって営業中、ずっと雲雀を目で追ってしまっていた。
営業時間が終わり、皆が寮に戻っても。
俺は後片付けをしながらソファに、だるそうに座る雲雀を目で追っていた。

何というか変な感じだ。
いつもは涼しい顔で余裕を持ち合わせている雲雀。
だけど今はソファの背凭れに身を預け、眉をひそめている。
それはどれ程、体調が悪いか表すもので。

俺は無意識の内に雲雀へと足を進めていった。
これはもう、ディーノに頼まれたからという理由ではないかもしれない。

「休まねぇからそうなるんだよ」

心底だるそうに雲雀は一瞥してきた、というよりも睨んできた。
そして、溜め息を吐いて一言。

「君は僕に構って欲しいの?」

「何言って…!」

俺が反論するより早く、雲雀は立ち上がっては大きな音を立てながら壁に手をついた。
ちょうど俺の頭の隣の壁を。
必然と、雲雀と目が合う羽目となる。

「ッ、」

「偽善で僕に構うな」

「は…?」

…偽善?
それって一体…。

「安心しなよ、僕はこの通り元気だから。大好きなディーノにそう言っておいて」


…何言ってんだ、こいつ。

嘲笑しながらそう告げる雲雀の言葉が、俺には理解できない。
だけど、それより理解できないのはドキドキと高鳴る胸の鼓動の意味だ。

それと、雲雀に詰め寄られたせいで一つ分かったことがある。
洩れる吐息が、とても熱いということ。
額に汗を滲ませているということ。
それは、即ち。

「お前…すげぇ熱じゃねぇか」

額に掌を当てると驚くほどにそこは熱く、雲雀が熱があるということを物語っている。
当人はそれに気付いているようで、別に驚いた素振りなど見せない。
ただ、薄く笑っただけ。

「はっ、誰のせいだと…」

それだけ呟いて、雲雀の身体は一気に傾いた。
意識が飛んでしまったようで、途中まで紡がれていた言葉は途絶えてしまったまま。
俺の方へと。

俺は避けることなく、倒れ込んできた雲雀の肩を思わず支えた。
ドキドキと胸の鼓動を高鳴らせながら。






波の音がする。

永続的な波の音。
心安らぐ波の音。

キラキラと輝く水面。
それよりもキラキラと輝く、何か。
いや、誰か。

強すぎる太陽の逆光のおかげで影をおび、ぼやける輪郭。

あ、振り返った。

「ひばり!」

確かに君は満面の笑みで僕の名前を呼んだ。
強すぎる太陽の逆光のおかげで影をおび、ぼやけた輪郭のまま。


途端、夢から追い出され現実へと引き戻される僕。

「夢か…」

最近、よく見る夢。
だけど今日の夢は、凄く臨場感があったような気がする。

そういえば、あれから僕はどうしたんだっけ?
記憶を手繰りよせると、途絶えたのは彼と話している最中だ。

それ以上、思い出せないのは恐らく体調の悪さが限界だったから。
でも、今はもう身体はすっかり楽になっている。
しかも辺りを見渡すとどうやら自室のベッドの上で、誰かが看病してくれたことを物語っている。

そう、恐らく彼が。
ベッドに凭れ掛かるように眠っている彼が。

そんな彼の銀色の髪を掬うように撫で上げた。
無意識の内に。

─なぜか、トクンと胸に響く柔らかな鼓動の意味は分からないけれど。










揺れ始めるモノ fin.




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