club vongole
□club vongole 17
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「あいつ体調悪いみたいなんだ」
恭弥には口止めされてんだけど、と付け加えるディーノ。
大方、予想はしていたがそれでも俺は微かに驚愕した。
雲雀は人間性に欠けていて、体調を崩すとかそういう類いとは無縁だと思っていたから。
よく考えれば、そんな人間いるわけないのだけれど。
「俺が休めっつても、どうも聞かなくてな」
問題児は困ると溜め息を吐くディーノに少し同情もするが、雲雀が人の言うことを聞く人種に見えなくて納得してしまう。
第三者な立場でディーノと雲雀を交互に見ていると、ディーノは驚愕の言葉を口にした。
「だから、隼人から言ってもらいたい」
「はぁ?何で俺がンなこと…断るぜ」
俺から雲雀に言う?
体調悪いなら休んだ方がいいって言えっていうのか?
そんなこと考える余地なく断るに決まっている。
これ以上ここにいるのはまずいと沢田さんに言われた通り、厨房に足を進めようとするが。
ディーノに腕を掴まれ、制止させられた。
「このままじゃ、多分あいつは倒れるまで働くと思うんだ…だから、頼む!」
考える余地なく断るに決まっている。
そう、思っていたのだけど…。
手を合わせて頭を下げるディーノを目の当たりにして、断り切れない俺がいる。
「…つーか、俺が言ったとこで無理に決まってんだろ。あいつが人の言うこと聞くタマかよ」
溜め息を吐きながらそう告げると、下げていた頭を上げディーノは自信満々に口を開いた。
「俺が言うより遥かに隼人が言ってくれる方が効果的だぜ」
「?」
「隼人が言って聞かなかったら、そん時は俺が何とかする」
だから取り敢えず試してくれ。
そこまで頼まれて断るのはどうかと思う。
しかも、ディーノはどうやら折れる気はないらしい。
「…チッ、貸しは高ェぞ」
仕方なく了承するとディーノは瞳を輝かせ抱きつこうとしてきたので、俺はそれからすり抜け雲雀の背中に視線を移した。
少し、僅かに少しだけど、確かに雲雀の体調を気に掛けながら。
厨房で雲雀を待った。
呼ばなくても、ここに来ると思ったから。
俺が雲雀の立場で体調が優れなかったら、接客なんてずっと出来るわけがない。
気分転換や息抜きに、必ずテーブルを立つ。
そう思って、俺は厨房で雲雀を待っていた。
案の定、しばらくして雲雀は厨房へと訪れた。
俺を見るなり、あからさまに嫌そうな表情を浮かべる雲雀が癪に障る。
それでも俺はディーノとの約束通り、おずおずと口を開いていった。
無視を決め込んで冷たい水で顔を洗い始める雲雀に「オイ」と声を投げ掛ける。
「体調悪ィんだったら休めよ」
顔を洗う手が微かに一度制止したのは、戸惑いからか驚愕からか。
それも直ぐ様消え、顔を洗い終わった雲雀はタオルで顔を拭きながら鋭利な眼差しを送ってきた。
「君に関係ない」
ピシャリと言い切られる雲雀の言葉に、カチンと来るのも無理はないだろう。
人がせっかく言ってやっているのに、その言い方は如何なものか。
「君が気付いたの?」
「あ?」
続く雲雀の唐突な質問に言わんとしている意味が分からず疑問符を打つものの、すぐにその意味は理解できた。
恐らく、体調の異変に俺が気付いたのか否やということだろう。
それを認めるのはどうも癪だ。
だから嘘を吐くことにした。
「ンなわけねぇだろ。ディーノに言われたんだよ」
「…へぇ」
失笑するように呟く雲雀。
そしてそのまま立ち去ろうとする雲雀。
「ちょっと待てって…!」
「…何?」
別に俺は心配なんてしていないし、心配する義理もない。
だけどディーノと約束した出前、すぐ引き下がることはできなくて。
「今日ぐらい休めって。ディーノが心配してんだろ」
「君の意志じゃないくせによく言うね」
「はぁ?」
雲雀の背中目掛け放った言葉に、雲雀は呆れるように言い切っただけで。
俺の努力も虚しく、その場を立ち去ってしまった。
俺はただ普段と違う雲雀の様子に違和感を覚えながら、その背中を見送った。