club vongole

□club vongole 17
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「獄寺くん」

悶々と思考を巡らせていると、それを遮断するように耳に飛び込む声。

ハッと我に返り、その声のする方へ向いてみればそこには沢田さんが手招きをしていて。
考え込んでいたせいか素通りしてしまったことに恥ずかしさを覚えながら沢田さんの席へとついた。

今は考えないようにしよう。
あいつのことなんて、考えたって解明できるわけがないのだから。

そう言い聞かせて俺は夜の蝶に群がる客の接客へと意識を傾けた。


沢田さんのヘルプは順調に進んでいった。
グラスが空いたらシャンパンを注ぐ、灰皿を求められたら佇んでいるキャストへと合図を出す。
どれも順調だ。
他のキャストのヘルプならば七面倒なことも相手が沢田さんとなれば快く仕事に励むことができる。

仕事に集中して、ようやく雲雀のこともベルのことも考えないで済む頃、トイレへと客が席を立った。
そして沢田さんと二人の空間の中、ヘルプがうまくなったと褒めてくれて何とも歯痒さを覚える。

褒められることに慣れていない俺は、沢田さんに褒めてもらったという事実に口許が弛んでしまう。
そんな俺を見て微笑む沢田さんはグラスに手を掛け、シャンパンで喉を潤した後、言葉を続けた。

「そういえば、どこ行ってたの?」
「え?」
「出勤前、獄寺君の部屋に声掛けたんだけどいなかったからさ」
「いや、その…」

買い物とか?
と、尋ねてくる沢田さんに何と言っていいのか分からなかった。

どうしようか。
ディーノには面倒になるからと思って、真意を濁した。
だけど今、目の前にしているのは尊敬している沢田さんなわけで。

正直、嘘を吐きたくはない。
それに、沢田さんに言っておいたら相談もできる。

そこまで考え、口を開こうと思ったのだが、俺は一つ息を飲んで思い留まった。

やはり、次期社長候補に話すのはどうなんだろう、と。

「はい、ちょっくら買い物行ってたんスよ」

そう告げると沢田さんは、そうなんだと一つ微笑んでくれて、その笑顔に嘘を吐いてしまったことから少し胸の痛みを感じた。


それから暫く経って、トイレへと席を立った客達が戻り、俺たちは再び接客を始めた。
一緒に接客しているのが沢田さんだからか、この空間が楽しく感じ、時間はあっという間に過ぎていった。

接客に夢中になっていると、不意に目の前を遮る黒い影。
その黒い影は普段の凛とした姿とは違く、どこかおぼつかない足取りに見えた。
そしてそのまま、テーブルへと着く黒い影。

珍しいものを見た、と俺は小さな声で沢田さんに耳打ちをした。
黒い影こと、雲雀のことを。

「今日の雲雀、何かおかしくないっスか?」

「そうかな?いつも通りに見えるけど」

どうして?と、首を傾げる沢田さんの瞳にはどうやら普段通りの雲雀が映ったらしい。
だけど、どうも沢田さんの言う言葉に首を縦に振れなくて、胸の突っ掛かりを覚えながらテーブルに着いている雲雀の背中を見つめていた。


そんな中、沢田さんにちょっと厨房から新しいグラスを持ってきて欲しいと頼まれ席を立った俺。
厨房へと向かう途中も雲雀を見ていたけれど、やはりいつもの雲雀とは違うような気がする。

恐らく、普通の奴なら気付かないだろう。
仕事中に悟られるようなヘマを、雲雀はしないと思うから。

だけど悪い意味で雲雀のことをよく見ていた俺には、その差違を感じることができる。


「やっぱ隼人にはお見通しみたいだな」

恭弥がいつもと違うってことを。
そう告げるディーノは、いつの間にか俺の隣に佇んでいた。

「何かあったのかよ」

どこか心配そうに雲雀の背中を見つめているディーノの表情は、雲雀に何かあったことを物語っている。

参ったと言わんばかりにディーノは表情を破綻させ、やがて口を開いていった。




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