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□情欲症候群
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昼休みに差し掛かり、十代目達と昼食を共にしようと腰を上げた瞬間、担任に呼び止められた。
何でも次の理科の授業で使う道具を準備しに、理科準備室に行って欲しいということ。
どうして俺が行かなくてはならないと抗議しても、担任は苦笑いを浮かべるだけで。
十代目の後押しもあったことから渋々、準備室へ向かっている状況下。


「ったく、めんどくせぇー」

空腹と面倒なことを頼まれたせいからか、苛立ちが募る。
それに付け加え、身体は暑く嫌な汗が滲み出る。
今日はそこまで暑い日じゃない筈なのに、どうしてこうも暑さを感じるのだろうか。

少しでも暑さを凌ごうとワイシャツを扇ぎながら辿り着いた準備室の扉を開けると、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。

「遅い、どれだけ待たせる気?」

「んなっ?!」

理科準備室の壁に背中を預け、俺を迎えた人物。
その正体に目を見開きざるを得なかった。

「何でテメェがここにいんだよ?!」

そう、そこに佇んでいたのは紛れもなく雲雀だったのだから。

「喚きすぎ。早く君がするべきことをしなよ、準備しに来たんだろ」

「この野郎…」

相変わらず冷静な口振りで雲雀は言う。
いや、冷静というよりは適当に俺をあしらっているような。

そんな雲雀の態度も気に入らないが少しでも早くこの空間から出たくて、嫌々と担任に頼まれた仕事に手を掛けることにした。

マッチや試験管、リトマス紙、その他諸々をクラスの人数分用意するというものは結構な重労働だ。
床で胡座をかきながら面倒な仕事を受け入れてしまったと舌打ちを一つ吐き、先程から沈黙を守っている雲雀を横目で見てみる。

一定の距離を置き椅子に腰を掛けている雲雀は、何やら真剣な表情を浮かべ真新しい段ボールの中身を手に取ったりペンを進めたりしていた。
恐らく、納入された新しい器具の点検でもしているのだろう。
制裁を加え傍若無人と恐れられる並盛の秩序は咬み殺すだけでなく、こういった地味な作業もこなしているということが意外だった。
てっきり部下に任せっぱなしと思っていたのだが雲雀自らこなしているということに、少し見直したかもしれない。

そんな物珍しい姿を横目に、汗は次から流れるばかりだ。
この部屋が暑すぎるのだろうかと思ったが、窓は開放され風通しはいい筈。
それに、雲雀は汗一滴も垂れてないという事実。

つまり俺だけが暑いということで。
しかも暑さからか分からないが、何故か息が上がってしまう。

それと、もう一つ。
下半身に先程からある違和感。

もしかして、これは…。

「ッ?!」

違和感を覚え、下半身に目を落とした俺は思わず驚愕した。
制服をやんわりと押し上げている自身が、目に飛び込んできたのだから。

何で俺、勃たってんだ?!


「何?」

「はっ?!いや、何でもねぇ!」

「…そう」

この状況でなぜか反応を示している自身に、戸惑いは隠せない。
だけど、こんな憐れな姿を雲雀に気付かれるわけにはいかない。
流れる汗は、暑さ故か焦り故か。

そんな俺の心境など知らず、雲雀は残酷な言葉を吐いた。

「ねぇ、これ運んで」

「な、んで俺が?」

「これも次の授業で使う筈だ」

「…ッ、」

新しいビーカーを運べと命令を下す雲雀。
準備をしに来た俺がこなさなくてはいけない仕事なのだけれど、最早そんなことをしている場合ではない。
次第に余裕が無くなっていく中、おずおずと口を開く。

「…寄越せ」

「君が取りに来なよ」

表情一つ変えず、雲雀は告げる。

取りになんて行けるわけない。
だって腰を上げたらバレてしまうから。
今だって前屈みになり、隠している状況だというのに。

だけど取りに行かなければ、怪しまれてしまう。
幸い俺の自身は、まだ半分程度反応を示しているというところだろう。
自身が完璧に反応を示す前にさっさと取りに行ってここを後にしようと決め込み、おずおずと立ち上がった。

一歩、また一歩と足を進めていく。
そして、漆黒の眼差しと出逢った瞬間、なぜか自身は完璧に反応を示す始末。

「ねぇ…興奮してるの?」

「ッ!」

いやらしく微笑う雲雀。
まさかバレてしまったか、と一気に頬が紅潮していくのが分かった。

「顔赤いよ」

「ただ暑いだけだっ!」

心配したのも束の間。
雲雀は俺の異変にまだ気付いていないようだ。
俺の顔が赤いから興奮しているのだと踏んだことにホッと安堵するけれど、自身は熱を冷ますことはない。

じんわりと下着が濡れていくことを肌で感じながら、差し出されるビーカーに手を伸ばす。
ああ、膝までもがガクガクと震え立っていることさえ儘ならない。
俺の身体は一体どうしてしまったというのだろうか。

ビーカーに指先が触れた瞬間、途端に感じた引力。

「んなっ?!」

引き寄せられ、間近に在る漆黒の双眼。
綺麗に口角を引いた雲雀は愉しそうに眼を細めた。

「バレバレ」

「ッ!」

そう一言告げた雲雀は、膝で悪戯げに張り詰めた自身を押し上げた。
すり抜けたビーカーは宙を描き、ガラスの割れる音が室内に鳴り響く。

まるで、賽は投げられたといわんばかりに響くガラスの音が耳に谺した。




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