key of love
□第一話
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盗賊として気ままな旅をしてきた。盗賊と聞いて引くなよ。これでも色々あったんだ。まぁ深くは聞かないで。
気ままな、あえて言えば魔王とは無縁の旅だった。
魔王が存在しようがしまいが俺には関係なかったし、一生関係ないはずだった。
彼女に会うまでは。
アリアハンのルイーダの店。
冒険者登録してるわけじゃないけど酒場にはよく来ていた。色んな情報聞けるしね。
その日はやけに酒場が騒がしかった。なんでもかの有名なオルテガの子息が魔王討伐の旅に出るとか。
俺にはまったく関係なかったが、酒場の連中は(と言うか冒険者登録してる奴らは)こんな話をしていた。
「俺さ、仲間になろうかと思うんだよ。だってオルテガの子供って言ったら勇者だろ?」
「あぁ。名を挙げられるチャンスだぜ」
どうぞご自由に。魔王の手下にでも殺されても知らないよ。
そんな事を思いながら先日仕事で手に入れた悟りの書をペラペラとめくってみた。全然内容がわかんないけど。
それにしても勇者ってのも大変だな。名誉の為だけに仲間になろうとする奴がいて。
そんでもって世界の命運を託されるわけだ。どんな奴か知らないけど同情しちゃうね。
その時酒場の鈴の音がカランカランと鳴った。
目線をそちらに向けると、この場にそぐわない人物が来店していた。
真っ黒な黒髪を胸の辺りまでまっすぐ伸ばし、背中には自分の身長ほどありそうな剣を背負った小柄な少女が無表情でルイーダがいるカウンターに向かった。
俺の横を通る時、ちらっと目が合った。漆黒の透き通る瞳をしている。
酒場に入った時から気付いていたが、かなりの美少女だ。やはり目立つのか、少女をじっくり見る奴らが何人か居た。
少女は俺の横をスッと通り過ぎるとルイーダと何か話し始めた。
話し声は聞こえるが内容までは分からない程度の距離なのですこし耳を澄ました。が、やはり聞こえない。
さらに澄まそうとしたが何故あの少女とルイーダの話をそこまで聞こうとしてるのか自分でも分からなくなって呆れて止めた。
途端に話の内容がすべて聞こえるようになった。ルイーダが大声をあげたから。
「駄目!絶対に駄目よ!一人で行くなんて!」
酒場に居る全員が一点に集中し、お陰で少女の声も聞こえた。
「心配いらない。大丈夫だから」
やけに澄んだ声をしている。
そう言うと少女は酒場を後にしようとした。
「待ちなさい!アイザ!」
ルイーダの静止と同時に少女とまた目が合った。と、行き成り俺を指差すとこう言い放った。
「ならこの人にする」
「は?」
「私の旅に同行して欲しい」
淡々と喋る子だ。などと冷静に考えながら少女を見ると、彼女の目が何かを訴えていた。
『この場は自分に合わせてほしい』
なんとなくだがそう感じた。
「別にいいけど…」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
ルイーダはファイルを持ち出して必死に俺の名簿を探してるようだ。見つかるはずがない。冒険者登録なんてしてないんだから。
少女はその隙に俺の腕を掴み酒場で出てしまった。