QUARTET〜不協和音な僕らの旅〜

□第12楽章
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「おいエリ!待てって!」


やっとの思いでエリの手首を掴んだ。


「放して!」

「何がどうしたんだよいきなり!」


エリの表情は、今にも泣きそう。と言うかすでに泣き顔だ。
なのに、涙が出てない。


「どうして私に構うのよ!どうして!どうして・・・私が勇者なのよ!」

「エリ・・・?」

「どうして戦わなきゃいけないのよ!ロトってなによ!なんで魔王が滅んでもなお特別なのよ!

私だって、普通の女の子に育ちたかった!
フィナみたいに髪伸ばして!フィナみたいにスカート履いて!
稽古より人形遊びがしたかった!
剣のことよりも洋服や化粧の話がしたかった!

だけど!そんなこと言ったら母さんが悲しむじゃない!
自分を責めるじゃない!

男に生まれなかった私が悪いの!
だから早く魔王を倒して普通に戻ろうって!
勇者なんて肩書きから解放される為に!」


エリは今、どんだけ苦しいんだろう。
わかってやれなくて、悔しい。
きっと俺には一生分からない気持ちだから・・・余計。


「でも・・・泣いたら、泣いたら父さんの事責めてるじゃない!
顔も声も覚えてないけど、大切な家族だから!
だから・・・逢いたいから旅に出た!本当は魔王なんて二の次だった!
こんな本心、聞いたら皆呆れる!だから誰にも言わなかった!
もう・・・こんな自分が嫌い・・・私なんか・・・生まれて来なければ良かった!」


腕を引っ張り、俺から解放されたエリはまた走り出した。
俺は、どうすればいい・・・。


『何難しいこと考えてんのよバーカ』


頭に浮かんだのは───悪魔エルザ。


「エリ!俺はお前が生まれて来てくれて嬉しい!」


エリは立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
難しいことじゃない。俺は思ったことを言えばいい。俺の・・・気持ち。


「お前に逢えて嬉しい!お前が勇者で良かった!
カイやエルザ達に出会えて、お前の傍に居れてすごく楽しいんだ!」


エリの笑顔を続かせるんじゃない。俺がエリを笑顔にさせる。


「俺にとっちゃお前は普通の女の子だ!だからっ」


勇気をだせ。今しか言えない。


「好───」

「青春の雄たけびかい?初々しいじゃないか!」


肩を叩かれ、横を向けば憎たらしいほど清々しい笑顔のシーアが。
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