□その男、営業マンにつき。
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「おはようございます。ご用件を承ります」

「志村さん!結婚してください!!」

「……申し訳ありませんが当社にブライダル関係の部署はございませんので、速やかにお引き取りください」
「いや、そうじゃなくてっ…!」

笑顔を張り付けたまま返事をする私の前でがっくりと肩を落としたこの男……近藤、だったかしら?
二週間前、受付に配属された初日にいきなりプロポーズしてきたと思ったら、その日から三日と開けずにやってきて毎回毎回同じことを……冗談にしてもたちが悪いったらない……なんて思いつつ眺めていたら、何かひらめいたかのように目を輝かせカウンター越しにずいっと身を乗り出してきた。



「わかりました!これは志村さんからの恋の試練なんですね!!営業一筋近藤勲!この恋の営業も必ず成果をあげて見せます!それではまた日を改めて出直させて頂きます」

「は?違いますから!ちょっと……!!」


「では、また」と、スッと立ち上がると直角に腰を折りお辞儀をして踵を返し玄関の方へ、私の声には振り返りもせず出て行ってしまった。
事の展開について行けない私は遠ざかる広い背中を見ながら『普通にしてたらもてそうなのに残念な人』なんてぼんやりと考えていた。



****



「お妙。あんたこれから大変よ」

「はい?」

「近藤さんって、営業成績優秀な超エリートよ」

「あれが!?」

「そう『あれが!』でもまぁ、玉の輿なんじゃない?」

「抵抗しても無駄だからあきらめなさい」そう言ってにんまり笑うおりょうちゃんの言葉が信じられなくて笑い飛ばしたのだけれど……………数日後、それがまぎれもなく真実であると実感することになるのです。




おわり



2011.10.30


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