□恋の定期便
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「ちょっとあなた、お年寄りに席を譲るのは常識でしょう?」
バスの後方から聞こえる、もう聞き慣れたよく通る声の主をミラーで確認する。
(またやってるよ。)

黙って笑っていればもてるであろうきれいな顔立ちをしていると思うのに、彼女の笑うところなんて見た記憶がない。

バスの中でシルバーシートを占有する者であったり痴漢行為をする輩であったり子供が騒ぐのを注意しない親に対してだったり。
非常識な誰かを注意しているか、そうでなければ口元をキュッと閉めてバスの振動なんて微動だにせず姿勢良く立っているかで、その姿はきれいだと思うけれど隙がない。

事の成り行きに聞き耳を立てながら運転をしていると、どうやらすぐに相手が折れたらしく「お嬢さんありがとう。」と、お礼を言う声が聞こえてきた。

「いいえ、当り前のことですから。」

そう返す彼女が笑っているのがミラーの端にうつった。
はじめて見た彼女の笑顔は想像していた以上にきれい…というより可愛くて思わず見とれてしまった。




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