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□いつもの
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すまいるのボックス席の一角から聞こえるいつもの2人のいつもの台詞。
「お妙さん結婚してください!」
ところが今日は相手の返事が違ったのです。
「わかりました」
「そうですよねぇ。わかりました……って……え?ええっっ!!お妙さん何を言うんですか!?」
返事に驚いた近藤が倒したグラスから水割りが流れてテーブルに広がる。
「何って、結婚するんでしょう?近藤さんが言ったんじゃありませんか」
お妙は近藤には目もくれず濡れたテーブルを拭きグラスを片付けていく。
「いや、ダメです。人生を左右する大事なことをよく考えもせず返事しちゃあいけません!」
「はい?」
手を止め近藤を見るとお妙は眉をひそめた。
「一回りも年の離れたゴリラなマダオなんて結婚相手としてダメでしょう!」
熱弁をふるいはじめた近藤は自分が言っていることを理解しているのかいないのか言葉が止まらない。比例してお妙の眉間の皺はどんどん深くなっていく。
「そのうえ仕事は危険でいつ死んでもおかしくない。もしかしたら若くして未亡人なんてこともあるかもしれないじゃあないですか。お妙さんを一人にするなんて、そんな男との結婚。たとえ新八君が許してもこの近藤が許しません!」
「………。」
知らず肩に力が入っていた近藤はふぅと息を吐いた。
「それって全部近藤さんのことですよねぇ?」
「……え?あ、あれ!?そうみたい、です、ね」
「ゴリラでマダオなストーカーでも収入は安定していそうだし、遺族の補償もしっかりしてくれそう職場だから、いっそ早死にしてくれてもいいわねーなんて思ったんですけど………意外に良識のあるゴリラだったんですねぇ…………って自覚できたんならまず見合うような男にならんかいっっ!!!」
グハッッという声とともに席から蹴り出された近藤が白眼をむいて床に転がる。
お妙は近藤を一瞥して呟いた。
「嘘も方便っていうじゃないですか。無理でも何でも『年の差なんて関係ない』とかどこぞの龍馬かぶれみたいに『僕は死にません』とか言えば良いじゃない……ほんとにバカがつくほど正直なひと」
ドゴッッっと派手な音を立ててもう一蹴り喰らわす。意識のない近藤が苦しそうな表情を見せるとお妙は満足そうに口の端を上げ、乱れた着物の裾を直し席を離れる。
倒れている近藤の表情が緩く笑っているように見えるのも控え室に去っていくお妙の足取りが軽く見えるのも、これまたいつもの光景。
おわり
2010.2.11