グランドフォース 〜三人の勇者〜
□〜第十五章〜
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花の蕾にはジースの言っていた通り、フォースの紋章が描かれていた。
それはやはり、レキが左胸にもつ紋章とまったく同じ模様で、不思議な光のような輪郭で描かれているその紋章は、わずかだが淡い光を放っていた。
―――……さぁグランドフォース、あなたが来るのを待っていたわ。……はやく私に触れて。……その時、ついに封印は解かれることになるの。
『……封、印?』
レキは声に導かれるまま、そっと手を差し出した。
フォースが触れる事で解かれる封印。
モンスターの侵略を受けつつ、なおもレキが来るのをずっと待ち続けていたフォースの花。
なにか、重大なものを封印していることは明らかだ。
レキはゆっくりと慎重に、そしてほとんど指先だけでそっと花に触れた。
―――…カッ!!!
その瞬間、辺りが光で包まれた。
『うわ!?』
あまりの輝きに、レキもほとんど目をあけていられなかった。
レキが触れる事によって長年の封印から解き放たれたフォースの花は、輝く七色の光を溢れ出しながらその蕾を一瞬にして開き、辺りを虹のように鮮やかに染め上げた。
虹のような光に照らされた一帯の焼け野原は、その光と同じ七色の花がつぎつぎに咲き乱れ、降り注ぐ白い灰は色とりどりの花びらへと変えられていく。
フォースの花によって焼け野原だったその場所は、一瞬にして元の花畑以上の美しい花の園となり、七色の光り輝く花と舞い散る花びらはこの世のものとは思えない、幻想的な光景を作り上げていた。
『すごい、綺麗だ……』
このあまりにも美しい光景にレキは目を奪われながらぽつりと呟くと、降り注ぐ花びらをすくおうと両の手のひらをそっと天へ向ける。
花びらはひらひらとレキの手の上へと舞い落ち、それはあとからあとから際限なく降り積もり、彼の手の中に小さな虹色の絨毯をつくる。
「……うふふ。花に夢中だなんて、可愛らしいじゃない」
ふいに、すぐそばで先程レキを導いたあの声がした。
しかしさっきのように頭の中に直接届く声ではなく、現実的にレキのそばで声を発している。
レキは反射的にその方向へと振り返った。
『え……!?』
レキが振り返った先にはなんとも美しい女性が一人、立っていた。
艶やかな長い黒髪に、大きな黒い瞳。非の打ち所のない完璧なスタイルと白く透きとおった肌をゆるりと包むのは、露出度の高い漆黒のドレス。
この鮮やかな七色の景色の中で、たった白と黒だけで彩られたその女性は、妖しいほどにその美しい存在を強調させ、まるで周りの花すべてが彼女を引き立てるためだけの役目を果たしているかのようにも見えた。
さらに彼女のすぐ側では、満開に咲き誇ったフォースの花が、花びらの一枚一枚を輝かせながら神秘的な光を放っている。
「……あなたが、グランドフォースね?」
女はその口元に妖艶な微笑をたたえると、さらりと美しい仕草で髪をかきあげながら、レキへと一歩近づいて来た。
『そうだけど……キミは?』
レキは自分を導いた声の主が突如姿を現したことに驚きながら、女が一歩近づいた分、わずかに後ろへ下がりつつ答えた。
フォースの花が咲き誇ると同時に出現したこの女。
味方のような気もするが、何か一瞬、ぬぐいきれない邪の雰囲気を隠しもっているようにも見えたのだ。
それは単にレキの思い過ごしだったのかもしれない。しかし体は無意識に女と間合いをとろうとしていたようだ。
「あら……? そんなに警戒しなくてもいいじゃない。せっかくこんなに素敵な場所で出会えたんだから……ねぇグランドフォース」
女は先程レキがしていたように手のひらを上へ向けると、優雅な仕草で舞い散る花びらをすくう。そしてなにか可笑しいのか、そのままクスクスとこぼれるような笑いをもらした。
相変わらず妖艶なオーラを感じさせはするが、しかしその光景はまるで一枚の絵画を見ているかのように美しくもあった。
七色の花園で、女の美しさは最大限、天才的なほどに引きだされている。
『……さっきからオレを呼んでいたのはキミだよね? キミは誰? 一応聞くけど、ルーシィさんってことはないよね?』
レキはやはり、少し警戒を残したままで尋ねる。
ダンデリオンの街で捕われている女性――ルーシィ。
直感でなんとなく違う気はしていたが、わずかに可能性があったため、レキは念のため確認した。
「ふふ、違うわ。私の名はルーシィじゃない。……でも、あなたを呼んだのは確かに私よ、グランドフォース」
女はそう言うと、笑みをたたえたままさらに大きく一歩レキへと近づいた。
そしてじっと捕えるような視線をレキへと向け、その瞳を真正面から覗き込む。
『……じゃあキミは一体誰なの?』
レキはわずかに戸惑いつつ女を見る。
女の視線には不思議な強い力があり、間近でそれを受け止めてしまったレキは、その絡み付くような視線から目が離せなくなりつつあった。
「フフ、グランドフォース。さっきあなた自分で言ってたじゃない。私の正体。それ間違ってないわよ?」
女はさらに近づいてきたがレキは後ろに下がることができなかった。
不思議な妖しい視線からも逃れることができず、警戒を残しつつもその瞳を見つめる。
『オレが? じゃあキミは……』
「フフ、……そうよ、私はフォースの花」
女はレキの言葉を引き継いで答えると、そのままさらに近づき、レキの耳元でクスリと笑った。
そしてもうほとんど吐息のような声を、レキの耳に囁くように吹きかける。
「……その妖精って、ところかしら」